第七十四話
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家に帰り着き、いつものように鞄をソファへ放り投げる。
パソコンが壊れようがどうなろうが、もう俺には関係ない。
近くのコンビニで買っておいた弁当とビールを取り出す。
今日は奮発して一番美味い銘柄にした。
コシュッという子気味いい音と共に、ビールの泡が飲み口からじんわりと溢れる。
喉仏を上下させ、職場での嫌な出来事を胃へ流し込んだ。
「はぁー………………」
スーツのスボンに酒臭い染みが広がっていくことすら気持ちいい。
尻に敷いたスマホを取り出し、俺は勢いに任せて電話した。
呼び出し音が鳴ること4回——。
「……もしもし?」
いやに他人行儀に出たな。
電話番号は登録してあるだろ。
” Hi.”と声を掛け、「もしもし? 俺だよ。ルークだ」と言えば、相手は悲鳴にも似た声で俺の名前を呼んだ。
「ルーク!? あんたの声久しぶりに聞いたわぁ。元気してる? ……ちょっと、デイビス! デイビス! ルークよ!」
スピーカーにはガサガサという雑音が混じっている。
大方、俺が久しぶりに電話をかけてきたことが嬉しくて、母さんが父さんの肩を揺すっているに違いない。
「……ねぇルーク聞こえてる?」
「あぁ、聞こえてるよ。…………母さん、ちょっと話したいことがあるんだが、今いいか?」
「何よ改まっちゃって。はっ! まさか結婚相手の紹介!?」