第五十四話
このタイミングでそれを聞いてくるのか。
メルヘンチックなこの場所で俺の仕事内容を聞けば、彼女がどんな顔をするか想像に難くない。
勿論、聞かれた時に備えてそれ相応の回答は用意してある。
だが彼女には嘘をつきたくなかった。
「そうだな…………一言で言うと、人々に夢を与える仕事をしている」
「凄い……! 夢を与えるなんて……ロマンチックなお仕事ね」
ロマンチックという言葉で吹き出しそうになるのを何とか堪える。
「前にも話した通り、俺はある制作会社のプロデューサーを担当しているんだ。そこでは……」
俺は言葉に詰まった。
彼女が瞳を煌めかせて話を聞いているからだ。
あぁ……。
罪悪感に支配されそうだ。
何も悪いことはしていないのに。
だが少なくとも嘘は言っていない。
AVは世の男女に「夢を与える」ものだ。
テレビで放送できるような職業ばかりでは、人々に夢を見せる前に世界そのものが成り立たなくなってしまう。
この理屈を知っているようで知らない人間は五万といる。
恐らく彼女もその一人なのだろうな。
もし俺がAV事務所で働いていると知ったら、彼女は何と言うだろうか。