第五十一話
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——チュルル。
「あ、また!」
雨風で古くなったベンチに座っている彼女は、野鳥の声に耳を澄ませた。
すぐ近くの地面に舞い降りたのは、ルリビタキだ。
鮮やかな青い羽根に包まれているから、あれは雄だな。
毛で覆われた白い腹がふくふくと動いている。
心地良い鳴き声を発する度、尾羽が上下に揺れた。
「おいで」
彼女が優しく手を伸ばすと、そのルリビタキは彼女の人差し指にちょこんと乗っかった。
そういえば昔、母親が見せてくれたビデオで『白雪姫』というアニメがあったな。
心の清らかな白雪姫は野生動物とも仲が良く、今の彼女みたいに鳥を手に乗せて話しかけていた。
チュチュンと鳴き声を真似する彼女がまさに白雪姫と重なり、俺は思わずシャッターを切った。
「凄いな。野鳥は警戒心が強いはずなんだが……。人馴れしているのか?」
こちらを見てはあちらを見るといった具合で、黒真珠のような目はなかなかカメラを捉えてくれない。
「ふふ。こっちじゃないわ。向こうのカメラを向いてあげてね」
人間の言葉など鳥に分かるはずもないが、何故かその鳥の視線がこちらを向いて、ピタリと止まった。
奇妙な出来事に俺は首を捻ったが、鳥の機嫌を損ねてしまわないよう、夢中でカメラに収めていく。