第四十七話
茶屋で休んだ後、俺達は湖を目指して傾斜のキツイ坂道を下り始めた。
俺は彼女の左側を歩いている。
彼女の歩調に合わせてゆっくりと下っていくのだが、それでもコンクリートが所々剥がれた道で彼女が
「この辺りは滑りやすいからな。少しずつ歩こう」
「ええ……」
敬語からタメ口へと移り変わったばかりの俺達は、互いにぎこちなさを感じていた。
「あっ」という声と同時に、彼女の体が傾く。
「おっと!」
反射的に体が動き、彼女の腹に腕を回す。
35歳という年齢になってくると、思うように体が言うことを利かなくなるものだが。
素早く抱き留められたことに自分でも驚いている。
「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい。躓いてしまって……」
「謝らなくていいんだ。それより、怪我はないか?」
「うん」
良かった。
俺はほっと胸を撫で下ろした。
彼女の見た目は繊細だから、どんな些細な怪我も負わせたくなかった。
「…………あ……あの」
「うん?」
「は…………」
霞のように消えていく声。
彼女の言葉であれば一言一句、溜息ですら聞き逃したくはない。
俺は思わず彼女の方へ顔を近づけた。
「ん、ごめん。何て言ったんだ?」