ビュッフェ!
朝が来た。
鳥が鳴いている。フランスの鳥の鳴き声はなんて表現されるのだろう。
朝チュン的な言葉はあるのだろうか。
上を見上げる。
すぐそこにカズナリ君の端正な顔があった。すやすや寝ている。
カズナリ君は寝ている時に、抱き癖があるようで、それはこれまでの旅でもわかっていたけど、まさか私が抱かれることになるとは思わなかった。
裸の胸板におでこをつける。かなり鍛えられていて、お腹はうっすら割れていた。二人の間の空気が生温かい。
思わず昨日の夜のことを思い出しそうになる。
カズナリ君の匂いの中にこれ以上いるのは危険だと思い、私はジリジリと腕の中から脱出しようとした。
けれど、離してくれない。むしろギュッと、抱きしめてくる。
「・・・カズナリ君」
わずかに口の端が上がる。
「起きてるでしょ?」
「・・・バレたか」
カズナリ君は目を開き、すぐに細めて微笑んだ。そして、おでこにキスをしてくる。
「おはよう」
「・・・おはよう」
なんだかいつも私ばかりが赤面している。こういうところがズルいと思う。
「きゃっ」
カズナリ君が首元に唇を寄せてくる。
「やっ、だめ」
「ホントに?」
頬を撫でられ、目を真剣に見つめられる。
「だ、だめ、じゃない、です・・・」
私は絶対に真っ赤になっているのがわかりながら、声を絞り出した。
「かわいい」
カズナリ君は満足げな笑みを浮かべ、口にキスをした。
「美味しいね」
「ね」
朝はビュッフェスタイルだった。昨日の夜はご飯を食べなかったが、それを差し引いてもとても美味しかった。
目の前でパンケーキを焼いてくれて、その焼き立てにたっぷりバターと蜂蜜をかけた。フルーツやヨーグルト、チーズ、ハムは何種類もあって、目移りしてしまう。
キンキンに冷えたミルクがこんなに美味しいとは思わなかった。喉をスッキリと通過していく。温かいオムレツやソーセージ、ラタトゥイユも嬉しい。
私たちはとても満足した。
「ビュッフェって、テンション上がるよね」
カズナリ君が言う。
「ね」
私は同意した。カプチーノを飲みながら、私たちはしばらくそこを動けなかった。
それからようやく立ち上がった私たちは、改めて農村の散歩に出掛けた。
いい天気だった。昨日の黄昏時とはまったくイメージが違い、白い建物に適度に日光が反射して、景色を清浄なものにしていた。
民家の辺りは石畳で、一つ一つの石の大きさが違う。ちょうど職人さんらしき人が修繕をしていて、一個一個パズルを当てはめるように石畳の道を作っていた。
細工がとても丁寧な印象を受けた。街全体の暮らしが丁寧で、文化の豊かさに改めて触れられた気がした。
建物や石畳だけでなく、空気や空、風までもが新鮮に感じた。
『飛行機乗れなくて良かったかも』
大きな手と、手をつなぎながら思った。