生ハム、フランスパン、チーズ、ワイン!
その後もふらふら当て所無く歩いた。カフェにまた入ったり、大きな墓地に入って、いろいろな墓を見物した。
これまた日本だと罰当たりになってしまうかもしれないが、モンマルトルでは墓地は一大観光地だった。
様々な形の墓があった。天使が祈っている大きな像の墓や故人はファラオなのかな?というエジプト風の墓などなどがあり、結構にゃんこが暮らしている場所でもあった。
もう夜になろうとしていた。
通りがかったところにたまたまあった、大きなスーパーに行った。
正直、めちゃくちゃ楽しかったし、テンションが上がった。
「すごくない?こんなにチーズあるよ」
何十種類というチーズがごろごろと並べられて売られている。しかも、そのどれもが安かった。
「サエさん、見て!これ超美味そう」
カズナリ君の指した先には、スイーツが所狭しと並べてあり、冷蔵されたクレームブリュレがあった。しかも、巨大な二個入りで数百円。
「ハァ!買うしかない!」
めまいを抑えながら、カートを押して、私たちはスーパー内部を巡った。他にも何十種類と並べられた板チョコがあった。カカオの含有量などの違いがあるようだった。
「お土産に買っていこう」
太一たち用にチョコを何枚も買った。
フランスだからなのか、乳製品系の食品が種類豊富で、しかも安い!チーズなんて、日本だと千円以上は必ずしそうな質と量のものが、二、三百円で売られている。
生ハムとフランスパンをさらに買い込み、ついでにワインも買い、私たちはホテルに戻った。
自然な流れで私の部屋に入り、ベッドに座り、フランスパンに生ハムとチーズをふんだんに挟んで食べた。
「うっま!」
「うっま!」
刃物なんてないから、パンとチーズを手でもいで、適当な大きさにする。その雑な食べ方もまた、美味しさを増していた。こんなにチーズを荒々しく食べたのは初めてだった。
「これ、なんてチーズなんだろ?」
何十種類とあるチーズから直感で適当に三個、選んだのだった。
「わかんない。甘しょっぱうまいね」
「ね」
種類もよくわからないチーズに舌鼓をうった。ワインがまたよく合った。
「フランス、すげぇ」
「うん、すげぇ」
満腹になって、私たちはベッドに仰向けになった。アルコールも手伝って、頭が少しぼんやりする。
「またあのスーパー行きたいなー」
つぶやくと、「うん、行こう」と隣で寝転がったカズナリ君が微笑んでいた。
・・・あれ?もしかして、これって、そういう状況になりつつある?
かすかに、私とカズナリ君の指先が触れた。
電気で弾かれたように、私の体が一瞬跳ねる。
「サエさん」
カズナリ君が、低い声で私を呼ぶ。
「は、はい?」
緊張してどもってしまう。
カズナリ君は上半身を起こし、寝転がったままの私に覆いかぶさるようにして、覗き込んだ。
私は目を強くつぶる。
カズナリ君の腕が、私の頭のすぐ近くに置かれる。目をつぶっていても、光がカズナリ君の体で遮られているのがわかる。
耳元でガサリという音がする。その音にまで、過剰に体が反応してしまう。
しかし、聞こえてきたのは、予想に反する言葉だった。
「スイーツ、どうする?」
目を開くと、カズナリ君は手に冷蔵クレームブリュレの入った袋をかざしていた。
「・・・食べよっか」
「うん!」
冷えたクレームブリュレはとても美味しかった。私たちは「うっま!」とまた言うことになった。
明日はエッフェル塔やルーヴル美術館に行ってみようという話になった。ろくに行き方を調べてもいないから、適当だが。
カズナリ君が自分の部屋に帰ると、私は歯磨きをして、シャワーを浴びた。筋肉が緩んで、結構疲れていたことにようやく気づいた。
今日はゆっくり休もう。
出力の弱い備え付けのドライヤーで髪を乾かすと、ベッドにすぐに潜り込んだ。
旅先でも隣の部屋にカズナリ君がいるんだなぁ、と思うと少し可笑しくて、口元が緩んだ。そのまま幸せな気分のまま、意識が途切れた。