今日はカレー!
週末には、『カズナリ君』をお昼ごはんに招待した。といっても、太一の友達も三人いたから、その子達と計六人でカレーを食べたのだった。
「カズナリ君、ヒゲにカレーついてるよ。しょうがないな~」
おしゃまな感じの女の子もいて、ティッシュで口を拭いてあげていた。『カズナリ君』はされるがままにしていて、おとなしい大型犬のようだった。
「お姉さん、うまいッス」
「ジュン君ありがとね。まだいっぱいあるから、おかわりしてね」
「はい!」
最近の子は元気で可愛くて礼儀正しいなぁ、なんて思っていた。ジュン君は度々家にも来る子で、いつも真っ黒に日焼けしている。肩を見ると皮がむけていて、すごく夏っぽい。
なんとなくの流れで、私も『カズナリ君』の家に行って遊ぶことになった。
「うわわわわわわっ!」
マリオがクラッシュした。
「アハハ、姉ちゃん下手すぎー!」
後ろから緑の甲羅を当ててきた太一が哄笑する。
「ひ、ひどい・・・」
私はこんなにも弟を憎いと思ったことはなかった。赤の甲羅ならまだしも、緑の甲羅を当ててくるなんて・・・。
「ここ、押したままで、バナナで防御しとくことが出来るッス」
ジュン君が教えてくれるが、そのボタンを押したまま操作することが難しい。結局私はドベでゴールした。
「フフフ、昔は上手かったって言ってたのに、下手じゃん」
おしゃまのリエちゃんが私を嘲笑う。完全に下に見られた。
「こ、これ、新しいから・・・」
苦しい言い訳だとわかっているが、言わずにはいられない。
「えー、でも今下手なら、意味ないじゃーん」
う、そのとおりだ。昔とった杵柄を誇っても仕方がない。しかし、悔しくて、私はちょっと泣きそうになった。
「もう一回やろうか」
「えー、何回目~?」
勝つまでやるんだよ、と心の中で思った。
「リエちゃんだって、一位じゃないでしょ?」
「わたしは二位でもいいも~ん。ビリじゃなければ」
ニヒッと笑うリエちゃん。かわいいが、憎らしい。
「一位じゃなければ、二位もビリも同じよ」
気取った風を装って、挑発する。
「あっ、いやだな~、その余裕のない考え方。古~い」
しかし、煽り耐性は圧倒的に現代小学生女子のほうが上だった。リエちゃんの余裕の笑みが心を穿つ。
「言ってはいけないことを言ってしまったわね・・・」
「え?」
私はうっそりと立ち上がり、リエちゃんを眼下に捉える。
「サ、サエリン?」
いつの間にやらサエリンと呼ばれるほどの仲になっていた私とリエちゃん。サエとリエで名前が似ているのを気にいってくれたようだ。
けれど、いくらなんでも踏み越えてはならぬ領分というものがある。そこを踏み越えられたら、もはや肉体言語しか残っていない。
「誰がオバサンだー!」
私は一気にリエちゃんに飛びかかり、羽交い締めにした。
「い、言ってない!オバサンとは言ってない!」
リエちゃんが必死に反駁するが、問答無用である。ツルツルのほっぺに頬ずりしてやる。
「や、やめて~、キャハハハハ」
くすぐったくて私も笑ってしまう。人の家だというのに、こんなにはしゃいだのは、それこそ小学生以来だった。
そんなことを女子二人がしていても、男性陣は我関せずという感じでゲームを再開しているのも良い。四人プレイなので、みんな真剣にゲーム画面に向き合っていた。
「もう!サエリン、バカなことやめて!」
「ごめんなさい」
リエちゃんに怒られるのも、おもしろい。
「カズナリ君上手いね」
私は、いつの間にか『カズナリ君』のことを、冴島さんではなく、カズナリ君と呼ぶようになっていた。
「うん。ゲームはマジ。手加減しないようにみんなで言ったの。じゃないと、つまらないもんね」
リエちゃんが言う。なるほど、と思った。
子どもって、案外大人だなぁ。
私も昔は、そうだったかな。思い出せないや。
「一位ゲットー!」
カズナリ君がゴールして喜ぶと、男子たちが一斉に舌打ちする。
「チッ、たまには負けろよ」
「マジで空気読めだし」
「カズナリ君、ホント大人げないんだけど」
「ええっ!ひどくない?」
カズナリ君が子どもたちの理不尽な仕打ちにショックを受けていた。しかし、男子たちは熾烈な二位争いになだれ込み、一位のことはもうシャットアウトしていた。
しょぼんとしたカズナリ君と目が合う。
なんとなく微笑まれて、私もなんとなく微笑み返した。