第三十五話
「…………とても良く似合っていますよ。女性らしさが溢れていて凄く素敵です」
「これで都会を歩いても変じゃない……ですか?」
「ええ。……和歌さんはどうですか?」
「着慣れない色なので、似合っているのか自分ではよくわからないんですけど、でもとても綺麗な色で……何度も鏡を見てしまいます」
「気に入って頂けたようですね」
「はい。……でも今回は着られただけで満足です」
「そうですか……。では、私がその服を持っていきますから、和歌さんは着替えるといいですよ」
「分かりました」
更衣室のカーテンが再び閉じられた。
その下から彼女の影が俺を誘っているように揺らめいている。
ワンピースがするりと脱ぎ落されたらしく、カーテンの裾下からはみ出してきた。
サッと中へ引きこまれてしまったが、暫くして、同じ場所からそろそろと白い手が突き出してきた。
その手には畳まれたワンピースが握られている。
(これは畳まなくてもいいんだがな……)
彼女を覗くことが無いように、俺は顔を背けてワンピースを受け取る。
今の俺と彼女は、たった1枚のカーテンを挟んだ関係にある。
恐らく彼女はまだ着物を着ていない。
首をゆっくりと更衣室へ向け、空いている手をカーテンへ伸ばす。
……カーテンごしなのに、良い香りがする。
このまま……少しカーテンをズラせば、彼女の……。
(——何を考えているんだ俺はっ!)
伸ばした手で太ももをつねり、邪心を揉み消す。
俺はそのまま急ぎ足でレジへ向かった。