第二十六話
「そうですよね。私もこの店の水が気に入っているんです。デザートだけを注文して飲み物は水だけ、なんてこともありますから」
自分でもよくこんな嘘がつけると思う。
「宜しかったら私のもどうぞ。……私はいつも飲んでますから」
彼女は遠慮する素振りも見せず、再びコップを傾けた。
何だか家の窓際で咲いている花に水をやっている気分だ。
飲み終わるのを見計らい、俺は話を切り出した。
「和歌さん、先日はあなたを探していたとお伝えしましたが……実は、個人的にあなたを取材させて頂きたいのです」
数秒のタイムラグがあり、やっと彼女の口が開いた。
「どうして私の取材をしたいのですか?」
彼女の瞳にはダウンライトの灯りが映り、生気を漲らせている。
「私は……数年前まではテレビ局でプロデューサーとして働いていました。
今は別の製作会社で働いていますが、なかなか思うような被写体がなく、毎日退屈していたところに和歌さんと出会ったんです。
……あなたには美しさ以外にも人を惹きつける何かがある。
少なくとも私はあなたに惹きつけられた。それは間違いありません」
「そんな風に言われるとなんだか恥ずかしいです。……ですが、取材はお断りさせて頂きたいかと思います」
「それは何故ですか?」
「私には、人に知られてはならない理由があるからです」