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第94話 晴れの日、当日―― ローゼマリアと両親

 なぜかジャファルが、結婚式の進行から手配までを、ラムジに依頼してきたのである。
 さすがのラムジも断ろうと思った。

「国王陛下。そればかりは専門職を雇ったほうがよいと考えます。私はローゼマリア奥さまのウェディングドレスなど用意できませんよ?」

 しかしジャファルは恋愛脳になってしまったのか、まったくひとの話を聞き入れなかった。

「そんなことはない。ローゼもラムジのセンスは少しエロいが、最高にいいと口にしている。それに私も、おまえが仕切ってくれるほうが安心できるのでな」

 エロいは余計である。ジャファルの妻となるローゼマリアの服を調達するさい、自分の好みをあれやこれやと注文つけてきたのは、ジャファルのほうだ。
 そこまで言われては、ラムジとしては本気を出すしかない。

 全身全霊を込め、細心の注意を払い、すべてのことに気を回し、自分の実力をすべて出し切って、君主の盛大な結婚式を執り行ったのである。


  §§§


 ローゼマリアは、今日ジャファルと結婚する。

 白いウェディングドレスはシーラーン風で、純白ではあるが暑い国らしく肩や腕を覆ってはいなかった。
 レースは細やかな職人の手作業で、胸もとが大きく開いてはいたが、長いヴェールでそのあたりは隠されている。
 ウエストは細くシェイプされ、しなやかなマーメイドラインの上に、ふわりとしたシフォンのレースが軽やかに揺れていた。

 ジュエリー類はほとんど身につけていなかったが、首にはシーラーン王国の名産である、大きなダイヤモンドのネックレスがきらめいていた。
 当然ヴェールの上に飾られているティアラにも、たくさんのダイヤモンドが埋め込まれている。
 いつもは黒のカンドゥーラにカフタンガウンを羽織っているジャファルだが、今日は全身が真っ白であった。
 カフタンガウンは、ローゼマリアのドレスと同じ刺繍が施されている。
 ジャファルとローゼマリアは挙式を終えたあと、宮殿の尖塔にあるバルコニーにて、シーラーン王国民に挨拶することになっていた。
 間もなくその時間になるが、両親がローゼマリアの艶姿をひと目見たくて、一緒にバルコニーに上がってきた。

「素晴らしいねえ。ローゼ」

「ほんとうに。綺麗だわ」

「お父さま、お母さま」

 両親が嬉しそうに微笑んでいるので、ローゼマリアも泣きそうになってしまう。
 父と母は、ミストリア王国の国王陛下からなんども親書を受け取ったが、頑なに母国へは戻らなかった。

「しばらくゆっくりと、夫婦水入らずで過ごそうと思っているのだよ。今戻っても、仕事が山積みだろう? 宰相のやらかした悪事の後始末なんて、やりたくないからねえ」

 そんなことを言い、ジャファルの用意してくれた別荘で、ふたり楽しくシーラーン生活を満喫している。

「でもミストリア王国は、お父さまがいなくなって大変なのではないかしら? なにしろ国政に費やす政費が減ってしまっているもの」

 アリスが無駄遣いした金額は、ミストリアの国家予算、なんと三年分であった。

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