第93話 愛の褥
「そなたの淫らな身体は、すべて私のものだ」
そう嬉しそうに言われてしまっては、快楽堕ちになってしまうほど感じやすい身体でもいいかと思えてしまう。
ジャファルになら、淫らな自分をあますことなく晒していいのだ。
「ジャファルさまっ……」
ローゼマリアの切実な声に、ジャファルが見下ろしてくる。
「わたくし、ジャファルさまだけにしか、そのような姿を見られたくありません。どうか、どうか……わたくしをずっと抱いていてくださいませ」
「当然だ。私はあなただけを一生愛する。気高き黄金の薔薇。愛しいローゼ。至上の宝だ」
「ジャファルさま……」
身体が、心が、精神が、ローゼマリアのすべてが、愉悦に制されていく。
ジャファルが感極まったローゼマリアを抱きしめてくれるから、優しさに包まれた気持ちになる。
「愛している。あなただけだ。黄金の気高き薔薇」
§§§
ラムジは朝から、目が回るほど忙しかった。
なにしろ今日は、晴れの日。大事な主君の結婚式である。
平民出身のラムジは、貧しいながらも勉学に励み、奨学金制度を利用して大学に入学した。
優秀であったラムジは、奨学金制度の利用者第一号であった。
その奨学金制度を作り上げたのが先王のファイサルであったが、ラムジが大学を卒業する前に崩御されてしまった。
もしかしたら奨学金制度そのものが、なくなってしまうかもしれない。
そんな不安の中、とりあえずは勉強をしなければならないということで日々頑張っていたが、賢王と誉れ高かったファイサル国王の次に冠を抱いたのは、放浪癖のある弟のジャファルであった。
これは、もうこの国も駄目かなと思えたとき。
留学を終えてシーラーン王国に戻ってきたジャファルが、態度を一変させた。
これまでなんらシーラーン王国のためになるようなことをしなかったというのに、突然なにかに目覚めたように国政に心血を注いだのだ。
そして奨学金制度は、なくなるどころか彼の手によって更にシステムが整い、将来性のある若者がさまざまなジャンルで利用できるよう改変されたのだ。
ラムジは大学を主席で卒業すると、ジャファルのそばで働きたいと願った。
しかしシーラーン王室は、平民のラムジを治世に加わらせることを拒否した。
ジャファルは古い考えの王室を解散させ、市井から優秀な人材を集め、再構築したのである。
ラムジはそのとき、ジャファルに取り立てられたのだ。
それ以降、一生懸命仕事に打ち込み、ジャファルの右腕と称されるくらいまでにのし上がった。
ジャファルに「頭でっかちすぎるから、身体を鍛えろ」と指示されたので剣技も習得したし、「主要国の語学を話せるようにしろ」と命令されたので、五カ国語も話せるようにした。
彼の命令を聞いているうちに、剣技や語学だけでなく、料理から女性のナンパテクニック、果ては鷹の世話まで、なんでもできるようになってしまった。
そんなせわしない人生となってしまったが、ラムジは満足していた。
命に替えてもいいと思えるほど大事な主君が、生涯の伴侶を見つけ、結婚することになったからである。
「これで、私の仕事も少しは減るだろう」
――と思っていた矢先。