第92話 もしかして、もしかすると、快楽に弱いという設定ですか?
甘く切なく、そして情熱的な口づけに、ローゼマリアの身体から力が抜けている。
そのままベッドに横たえられると、彼の手がドレスの前をはだけてきた。
「やぁん……」
なめらかなリネンシーツの上で身を悶えさせるローゼマリアに、ジャファルが気をよくした。
「あなたは本当に感じやすい身体をしている」
「そんな……」
羞恥で顔を染めてしまうローゼマリアに、彼が衝撃的なひと言を漏らした。
「もし獄卒兵や盗賊連中が、この美しく感じやすい身体を陵辱したならば、逆にのめり込んでしまうだろうな。オークション会場での公爵も同じだろう」
「え……」
ジャファルのひと言で、ローゼマリアはあることに気がついてしまった。
(もしかして……わたくしは、快感に弱い身体という設定なの?)
悪役令嬢のローゼマリアが本来迎えるはずだった、鬱必須の闇堕ちバッドエンド――
脱走しないよう首枷をつけられ、一枚の布も与えられず、獄卒兵と囚人たちにかわるがわる犯されるというおぞましい結末。
快楽しか考えられなくなったローゼマリアは、喜々としてそれを受け入れるということだが――
あのような過酷な状況で、快楽堕ちをするということは、ローゼマリアの身体はたいそう淫乱ということになる。
(も、もしかして、もしかすると……今の今まで気がつかなかったけど、わたくしはゲームの設定上、快楽に弱い身体だということ?!)
呆然とるするローゼマリアに、ジャファルが艶やかな笑みを見せた。
「そんな事態は、私が命に替えても阻止するがな。これからもそなたを狙う輩が出てきたら、全員叩き切ってやる」
笑いながら物騒なことを口にするから、ローゼマリアはすぐに意識を戻してしまう。
(想像の範疇だけど……わたくしは快楽に弱いのだわ。そのような設定である以上、覆すことなんてできない。でも……待って。わたくしは悪役令嬢の枷を壊しているのよ? もう設定に従う必要など……)