第91話 あなたは知らない。悪役令嬢補正という枷を打ち砕いてくれたことを
「わたくし……その、ジャファルさまとの結婚は、取引というか……助けていただく代わりに、その……抱かれるのかと……」
言いにくそうに呟くローゼマリアに、ジャファルが真摯な顔を向ける。
「すまなかった。あなたをどうしても手に入れたかったので取引を持ちかけた。卑怯だったな、許してくれ」
「卑怯なんてことはありませんわ。ただ……」
ローゼマリアは俯くと、小さい声で呟く。
「その……寂しかっただけです。取引が終了してしまったら、どうしようって……」
悲壮なローゼマリアに、ジャファルがはっきりとこう口にした。
「取引相手ではない。あなたは私の運命のひと。私の人生に咲いた艶やかな薔薇だ。いつまでも美しく咲き誇ってもらうために、精根を尽くすつもりなのだからな」
「ジャファルさま……」
ジャファルが泣きそうになるローゼマリアに、艶やかな笑みを見せる。
「私の人生に足りないもの、それは……」
ローゼマリアのきらめく金髪に指を絡め、そっと頭にキスをする。
「あなただ。ローゼ。あなたが私の傍らにいてくれたら、私は強く生きられる」
ジャファルはいつでも屈強で雄々しくて、頼もしかった。けして弱々しくなどない。
だが、ローゼマリアが知らないうちに彼を救っていたのだとしたら、どれだけ光栄なことだろうかと思う。
「ジャファルさまこそ、ずっとわたくしのそばにいてくださいませ。わたくしも、それで強く生きていけると思いますもの」
(あなたは知らない。気づかぬうちにローゼマリアの持つ悲惨な運命……悪役令嬢補正という枷を打ち砕いてくれたことを……)
「もちろんだ。一生そばにいると誓う」
「嬉しい……ジャファルさま……」
ジャファルの端整な顔が、ローゼマリアの顔に覆い被さる。
唇を会わせると、すぐさま歯列をこじ開けられ、ヌルついた熱い舌が口腔内に挿いり込んできた。
ローゼマリアの舌にすぐさま絡みつき、舌先同士を捏ね回してくる。
「ふっ……ぁんっ……ふぁあ……」
彼の舌が頬の裏や口蓋を舐めるたび、喉の奥から彼をもっと欲しいというみだりがましい欲求が昂ぶっていく。
ジャファルによって至上の快楽を教え込まされた身体は、舌を絡ませあう口づけで、すぐに疼いてしまう。
「ふぁ……ふ……んんっ……ぁはぁ……」
きらめく金の髪に節くれ立った指を差し込み、後頭部を引き寄せた。
よりいっそう深くなる口づけに、ローゼマリアの息が上がりそうになる。