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第77話 救国の聖乙女アリスの醜い甘言

「まったく」

 ジャファルの即答に、さすがのアリスも狼狽えたようすを見せる。
 ソファに座ったままコーヒーをすする宰相が、瞬時に表情を強ばらせた。

「えー! あり得ない! 私は救国の聖乙女よ? まずは、そこをわかって……」

「関係ないな。あまりにしつこいと、実力行使で追い出すぞ」

 アリスは、けんもほろろなジャファルから目線を外し、その後ろに立つローゼマリアに攻撃の矢を向けてきた。

「あーわかった! そこの女に嘘を吹き込まれたんだ! そのローゼマリアって女は傾国の悪魔よ? なにを言っても信じちゃ駄目! あなたは私のことだけ信じればいいの」

 ローゼマリアを目の前にして、そんな虚言をうそぶくアリスに、ジャファルが怒りをぶつける。

「私の妻を愚弄するとは許せん。きさまがミストリア王国でどういう扱いを受けようとも、ここはシーラーン王国だ。侮辱罪、不敬罪として牢獄にぶち込まれたいか」

 ジャファルの脅しに、アリスが面食らった顔をした。

「妻ぁ? ちょ……ええ? この女が? 信じられない。あり得ないわ!」

「知るか。さあ、出て行け。そろそろ面倒くさいので、衛兵を呼ぶぞ」

「うっそぉ。ちょっと信じらんないんですけどー」

 アリスが手を後ろに組むと、検分するようにローゼマリアを覗き込んでくる。
 ローゼマリアは怯むことなく、彼女の目の前に立った。

「アリスさん。フォーチュンナイトがおりませんね。宰相閣下とふたりだけのご来訪でございますか?」

 ローゼマリアが話しかけると、アリスが不敵な笑みを見せた。

「そうよー。ミストリア王国で一番速い馬に馬車を引かせて、ここまできたの。フォーチュンナイトたちも間もなく到着するわ。だから、あんたが偉そうにしてられるのは今だけよ」

「偉そうになどしておりません。わたくしは、あなたにお伺いしたいことがあるだけです」

 アリスが首を傾げてローゼマリアを見返してくる。

「なあに?」

「わたくしを、執拗に狙う意味です。あなたにそこまで命を狙われる覚えはありませんわ」

「あんたが生きていたらミストリア国が滅びるというお告げを受けたのよ。だから殺さないといけないの。諦めて?」

 ジャファルが前に出て庇おうとしたが、ローゼマリアはわざと彼の腕を押さえ前に出た。
 決意を秘めたローゼマリアの雰囲気に、見守るつもりでいるのか、ジャファルが口を閉ざす。
 アリスは気にしたようすもなく、ペラペラとローゼマリアに向かって話し始める。

「あんたとミットフォート公爵家の連中はぜーんぶ邪魔。つまり国害ってやつ?」

「あなたにとって都合の悪いものは、すべて国害……つまりミストリア王国にとって有害ということですか?」

「そうよー。なんだ、わかってんじゃない」

 悪びれずそう返してくるアリスに、ローゼマリアの胸の奥が痛くなる。

(なんてひどい……一国の行く末と、わたくしの運命を乱すような言動を考えなしにするなんて……)

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