第76話 女狐と古狸の稚拙な企み
ジャファルとともに、ローゼマリアは貴賓室へと赴く。
そこにアリスと宰相のふたりがソファに腰かけ、メイドに向かって偉そうな態度を取っていた。
「もっとカットフルーツ持ってきなさいよ。気が利かないわね、ここの使用人は」
「はあ……お待ちくださいませ」
「おかわりのフルーツなど必要ない。この連中は招かれざる客だ。すぐに帰ってもらう」
扉を開けてジャファルが部屋に入っていくと、困り果てたメイドが慌てて駆けよってきた。
「申しわけございません。フルーツもケーキもお茶も出しておりますが、次々に食べ物を所望されまして……」
「私が追い返す。自分の仕事に戻ってくれ」
「ありがとうございます。では、失礼いたします」
メイドが貴賓室から出て行くと、そこにはジャファルとローゼマリア、アリスと宰相だけになってしまった。
ジャファルがソファに近づいても、アリスと宰相は立ち上がるどころか、ふてぶてしく見据えてくるだけだ。
ジャファルが目をすがめると、怒りのこもった低い声でこう告げる。
「私はきさまらを招いた覚えがない。早速だが、宮殿から立ち去ってもらおうか」
ジャファルの威嚇に、アリスも宰相も一瞬身が竦んだようだが、すぐ不作法な態度をとる。
「やだぁ。私の話を聞いたら、考えも変わるわよ」
アリスはソファからすっと立ち上がると、ジャファルの目の前にぴょんと立った。
「ねえ。あなたを私のフォーチュンナイトの筆頭にしてあげる。それでね、私は王太子であるユージンと結婚して王妃となるけど、法律を変えるからシーラーン王国の王妃も兼任してあげるわよ。これでどう?」
ジャファルの眉間に、くっきりとした皺が寄る。
「法律を変えるだと?」
「そっ。ミストリア王国は重婚を認めてないのよねえ。だけど私が王妃になったら、それを変えちゃうの。私はミストリア王国の王妃でありながらシーラーン王国の王妃になれるのよ。どう? すごいでしょ?」
なにがどうすごいのかわからないが、それはミストリア王国に対しても、シーラーン王国に対しても不誠実ではないだろうか。
ジャファルはアリスの戯言に対し、まともに取り合うつもりはないようだ。
「……どういう都合のいい夢だ。私には関係ない。なんども言わすな。さっさと出て行け」
寝言のような絵空事に反応しないジャファルに、アリスが心底驚いた顔をした。
「ええ? 私にそこまで言われて、嬉しくないの?」