第74話 アリスの急襲!
(ジャファルさまのお人柄かしら? 不思議だわ、そのほうがなんだかステキだもの)
宮殿のエントランスに到着すると、その荘厳さに目を見開いてしまう。
アーチ型の天井には幾何学の精緻なモザイクがはめ込まれ、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
天井は、金箔と青色の陶器を組み合わせた広がりのある幾何学模様で、下から見上げるとドーム型をしており、宇宙のように荘厳だ。その模様の精巧さと美しさに、思わず魅了されてしまう。
大理石の床上には、花や蝶、鳥がデザインされたペルシャ絨毯が、どこまでも長く敷かれていた。
廊下にはいくつものモザイクランタンが灯され、きらめく七色の光を放っている。
高名な画家と思わしき絵も飾られていたが、風土に合わせたのか、どれも自然をモチーフし絵ばかりであった。
絨毯とデザインを揃えたのか、蝶や鳥が飛び回るタペストリーも見事である。
出迎えた臣下たちが頭を下げると、後ろからついてきたラムジが彼らにさまざまな指示を出した。
その光景が気になってしまったローゼマリアの耳もとで、ジャファルがそっと囁く。
「ラムジは私の秘書だが、宮殿の筆頭執事もまかせてある」
「……身の回りの世話をする、従者のかたではなかったのですか?」
「そういうこともしている。つまりは私の影として、宮殿内で広く動く役目を担っているということだ」
ローゼマリアの脳内にある筆頭執事は、執事として何年も務めあげたあと、初老になった頃に、任命されるイメージである。
はっきり言ってあんなに若い男性が筆頭ということは、かなりの切れ者だと推測した。
「私は実力評価主義でね。優秀ならば年に関係なく要職に就ける」
ジャファルらしい返答に、ローゼマリアもなぜか納得してしまう。
(素晴らしい考えだわ。ミストリア王国では実力や能力に関係なく、年長者が要職を占めている。だから、あんな宰相が暴利を貪っていられるのよ)
ラムジが、ローゼマリアを臣下たちに紹介した。
「国王陛下の結婚相手となられるローゼさまだ。みな、見知りおくように」
臣下たちはとりあえずの礼はしたが、すぐに妙な表情でちらちらとローゼマリアを見てくる。
「どうした?」
ラムジの問いに、臣下の女性が困った顔で説明を始める。
「それが……さきほどから妙な珍客が貴賓室で騒いでいるのです」
「珍客?」
「はい。ミストリア王国の次期王妃とのことですが……」
嫌な予感がして、全身がゾクリと震えた。