男と女のちょめちょめ事情 その1
セツブンも無事終了し、平常営業に戻ったコンビニおもてなしです。
おかげさまで、4つある支店はすべてお客さんで賑わっています。
ルシクコンベから持ち帰った布を使っての試作も順調に進んでいるらしく、おもてなし商会テトテ集落のリンボアさんからも、あと数日したら試作品をお持ち出来そうですとの連絡をもらっています。
そうなれば、コンビニおもてなしの商品に、新たに子供服が加わる日もそう遠くありません。
良い布を使用している子供服を安く提供出来そうな目処がつきつつありますので、僕も内心でとても嬉しく思っているんですよね。
そんな僕は、本店の営業が終わると、いつものようにコンビニおもてなし本店のレジ横にある通路を通って厨房へと移動していきました。
明日の仕込みをするためです、はい。
ちなにに、この廊下って壁にドアがいっぱいついています。
これ全部、スアが作った転移ドアなんですよね。
コンビニおもてなしの各支店を始め、おもてなし商会やオトの街なんかにもつながっています。
「あの~」
で、最近は新たにルシクコンベへのドアも開通しまして
「あの~……そこの男の方~」
そのドアがこれになるんですけど……あれ? この扉、なんで少し開いて……
「先ほどからお呼びしてるんです~、そろそろ気がついておくんなまし~」
「うわぁ!?な、なんだぁ!?」
僕は、少しだけ開いていたルシクコンベへの転移ドアの隙間を覗き根でびっくりしました。
このルシクコンベの転移ドアって、向こうからこっちにこれないように結界が張られているんですよね。
これはルシクコンベの長のグルマポッポの申し出を受けてスアが魔法をかけた物なんですけど……
その結界の隙間に、必死に羽を突っ込んで扉を開けようとしている鳥人の女の子がそこにいたんですよ。
で、僕は扉を開けました。
すると、その女の子は結界の隙間に突っ込んでいた羽を引っ込めて、大きなため息をついています。
「気がついていただけて助かりました~、どんなに頑張ってもあれ以上扉を開けることが出来なかったのでございます~」
そう言いながら、その女の子はニッコリ笑いました。
みた感じ、すごく幼いですね。
パラナミオと同じ年くらいでしょうか?
あ、でも鳥人は見た目が異常に若く見えるっていうし……
で、僕がそんな事を考えていると、その女の子は改めて僕の事をマジマジと見つめて来ました。
「あの~、あなた先日ルシクコンベにいらした方ですよね~?」
「うん、そうだけど?」
「あの~、その時ツメバ様のお名前を口になさいませんでしたか~?」
「え?」
その鳥人の女の子に言われて、僕は必死に記憶をたどっていきました……
***回想中***
「鳥人達はですな、掟で下界にやたらと出向いてはいかんことになっておりますのでね……ぷひぃ」
「あぁ、そうなんですか」
「……あれ? 四号店のツメバって、燕人だから鳥人じゃなかったっけ?」
「ん? どうかなさいました……ぷひぃ?」
「あ、いえいえ、何でもありません」
***回想ここまで***
「あぁ、言ったねぇ、うん」
僕の言葉を聞くと、その女の子は扉の向こうでぱぁっと顔を輝かせました。
「燕人のツメバ様をご存じなんですね!」
「あ、あぁ、一応僕の知ってるツメバは燕人だけど……お嬢さん、ツメバのお知り合い?」
そう僕が聞くと、その女の子はニッコリ笑っていいました。
「はい、奥さんです!」
「え?」
◇◇
とりあえず、僕はスアに頼んで結界を一時的に外してもらって、この自称ツメバの奥さんを本店に迎え入れました。
「申し遅れました。私、雀人のチュンチュと申します」
「あ、僕は店長のタクラです」
お互いに挨拶を交わしながら、僕はとりあえず本店の奥にある応接室へと移動していきました。
で、店の前で掃除をしていたブリリアンにお願いして、四号店のツメバを呼びにいってもらっています。
「……で、チュンチュさんは、ツメバに会いに来たってことでいいんだよね?」
「はい、そうでございます」
そう言うと、チュンチュさんはペコリと頭を下げました。
しかし、幼そうな顔をしてますけど……奥さんねぇ……
僕が、そんな事を思っていると
「店長、お呼びだそうで……」
そう言いながら、ブリリアンに連れられたツメバが応接室に入ってきたのですが……
その瞬間です。
それまでニコニコ笑っていたチュンチュさんの顔がですね……一瞬にして般若のごとく変化したんです。
「あんたぁ! どこほっつき飛んでいるのかと思って心配してたんだかんねぇ!」
「げぇ!? チュンチュ!? なんでここがわかったぁ!?」
咄嗟に逃げだそうとするツメバ。
そんなツメバをチュンチュは、両手の羽で挟み込んでいきまして……
***しばらくお待ちください***
え~……色々ありまして、現在ツメバは体中に突っつかれた跡をこさえてソファに転がりピクピクしています……
そんなツメバに、平静を取り戻したチュンチュが抱きついています。
「もう、ホントに心配してたんですよ……いきなりいなくなるんですから……」
「あ……はい、すいません……」
で、チュンチュから事情を聞いたのですが……
なんでもツメバは、元々はルシクコンベの住人だったそうです。
ですが、
「俺、こんな田舎いやだ! 都会へ出るんだ!」
って言い残して、ある日いきなり居なくなってしまったんだとか……奥さんのチュンチュを残して……
「だ、だからチュンチュ、それは誤解だって……俺、都会へ出て生活が安定したらお前を呼び寄せるつもりだったんだから……」
「じゃあ、今日から一緒に住めばいいですわね」
「あ、いや……今日はまだ……無理っていうかその……」
「なんで、でございますか? チュンチュはツメバ様がいらっしゃいましたら、例え木の上でもかまませんですわよ」
「そういのじゃなくて……僕、ちょっと困った事を抱えてて……」
……とまぁ、ツメバなんですけど終始なんか歯切れが悪いんですよね。
なんでもチュンチュはツメバを見つけたら下界で暮らしてもいいってお墨付きをグルマポッポからもらってるって話なのに……はてさて?
で、散々そんなやりとりを繰り返していたツメバとチュンチュなんですが……ここでチュンチュの顔が豹変しました、
いきなりあの般若の形相になったんですよ。
「……女だな? 私の他に女が出来たんだな? だから一緒に暮らせないってんだろぅが!」
そう言うと、チュンチュはすごい勢いで応接室を飛び出すと、転移ドアに向かって行きました。
「匂う! 匂うぞ! おめぇのこの匂いをつたっていけば、おめぇの家にたどりつけるはず!」
チュンチュは般若の形相のまま4号店への転移ドアをくぐっていきます。
「まってチュンチュ! 今、僕の家にいくのはまずいんだ!」
ツメバもまた必死の形相でチュンチュを追いかけていきます。
「……い、一応僕らもいかなきゃならないよな」
「えぇ!?私もですかぁ?」
ってなわけで、僕とブリリアンも、仕方なく2人の後を追いかけていきました。
ツメバの家は、4号店からそう離れていない温泉街の裏通りにあります。
そこのアパートの二階に住んでるはずなんです。
住居手当を支給してますんでね、僕もよく知ってるわけです……あ、個人情報になりますんで、今読んだ内容はすぐ忘れてくださいね。
で、
チュンチュは、ツメバの匂いを嗅ぎながら迷うことなくそのアパートの二階の一室の前に立ちました。
「ここねぇ!」
そう言うと、チュンチュはその戸を開けました。
すると
「チェストだってば~!」
部屋の中から女性の声がしたかと思うと、同時に木の棒が振り下ろされてきました。
その木の棒は、チュンチュの顔面を……
「クローコさん、この子は違うんです~」
……捕らえるよりも一瞬早く駆け寄ったツメバがチュンチュの身代わりになって木の棒を顔面に喰らっていきました。
「がふぅ!?」
その直撃を受けたツメバは、壁に激突していったんですけど……
「……え? ツメバの部屋に、なんでクローコさんがいるの?」
そうなんです。
ツメバの部屋から、木の棒を持って姿を現したのって4号店の店長やってるクローコさんだったんですよね。
……え? マジで浮気? ツメバが? クローコさんと?