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セツブンです! その2

 朝、あやうく窒息しそうになった伝説の魔法使いを一家総出でレスキューすることに成功したタクラ家です。

 そんな僕が経営しているコンビニおもてなしは、3日の本日もいつも通り開店しました。
 で、ですね……
 どの店にもすごい数のお客様が押し寄せていたんです。

 元々この世界には存在しなかったセツブンって行事ですけど、ポスターつくって宣伝した成果が実った感じです。
 エレエ達商店街組合のみんなも協力してくれて、あちこちの都市や街にポスターを配布してくれたらしく、遠方からのお客様もすごく多い感じです。
 わざわざ宿に宿泊してまでして買いに来てくださっている人までいたようで、ホントありがたいやら、恐縮するやらだったわけです、はい。
 
 そんなわけで、今日は本店から4号店まで全ての店が1日中お客様でごった返していました。

 少しびっくりしたのが、こういったイベントの時にも反応が極めて薄いことが多かった3号店にまで行列が出来たことです。
 何しろ、年末のクリスマスならぬパルマ聖誕祭ケーキの時も、お正月ならぬオネの1日のおせち料理の時もそれなりの反応しかなかった三号店ですからね。
 まぁ、三号店のある場所って魔法使い集落のど真ん中で、お客さんのほぼ100%が、魔法使いかその使い魔の皆さんですので、そういった世俗的な行事に反応が薄いのも、まぁ仕方ないかと思ってたわけです。
 我が家の奥さまは魔法使いことスアもですね、
「パルマ聖誕祭ケーキ?……ふ~ん……」
「おせち料理?……ふ~ん……」
 と、最初反応がすごく鈍かったですしね。
 スアによると、魔法使いっていうのは、研究に没頭しちゃうことが多い上に、その研究ってのが2年とか3年とか続くことも珍しくないそうなんですよ。そのため、どうして世情に疎くなるというか無関心になっていっちゃうみたいなんですよね。

 で、このセツブンですけどこの世界には当然根付いていません。
 一応厄災除けってことにして、厄災魔獣のお面と一緒に、豆まきの仕方をイラスト入りで解説した紙も付けているんですけど、それだけで無事伝わるかどうか、ちと心配なわけです。
 
 で

 本店で昼に実演をおこないました。
 本店での実演販売といえば、そう、この人! ウルムナギ又のルービアスの出番です。
「えぇ、店長さん!おまかせください! このルービアスが華麗に厄災魔獣役をこなしてみせますよ!」
 ルービアスはですね、夜なべして作成した厄災魔獣をイメージしたらしいコスチュームを身につけ、顔に厄災魔獣のお面を付けて気合い満々です。
 ……なお、コスチュームの出来に関しては、温かい目で見守ってやっていただけると幸いです……

 で、その時が来ました。
 列に並んでいる人々の横に、厄災魔獣のコスプレもどきをしたルービアスが
「あひょおおおおおお!」
 と、妙な叫び声をあげながら飛び出していきました。
 そんなルービアスを見ながら皆さん
「なんだなんだ!?」
 と、一斉にびっくりした……と、言うよりは、『ルービアスちゃん、何やってんの?』的な……なんですかね、学芸会で壇上に登場した子供を見守っている保護者的な暖かい視線を向けています。
 で、厄災魔獣役のルービアスが、変な踊りといいますか、暴れているお芝居をしていると、そこにヤルメキスが登場しました。
 ヤルメキスは、豆の入った小袋を皆さんに配りながら、
「さ、さ、さ、さぁ、皆様、あの厄災魔獣にですね『厄災は外!』と言いながらこの豆をぶつけるでごじゃりまする。そうすれば一年間、いいことがあるでごじゃりまする」
 皆さんに説明しています。
 で、豆を受け取った皆さん、
「え? これをルービアスちゃんにぶつけるの?」
「どうやって?」
 と、少し戸惑い気味な様子です。
 すると、そこにちょうど狩りから帰って来たイエロとセーテンが姿を現しました。
 で、二人はですね、ヤルメキスが配っている豆をいくつか手に取ると
「皆の衆、拙者達がお手本を見せるでござる」
「こうやるキ!」
 そう言うと同時に、小袋に入った豆を小袋ごと厄災魔獣~中の人:ルービアス~に向けて全力で投げつけました。

 ……その光景を真横で見ていたヤルメキスは、後にこう語りました。

「あ、あ、あ、あのですね……ま、ま、ま、豆の袋がですね……その、『ゴウ!』ってですね、あり得ない轟音を轟かせながら飛んでいったのでごじゃりまする。す、す、す、するとですね、そ、そ、そ、それを顔面で受けたルービアスさんはですね、一瞬にしてですね、は、は、は、はるか向こうにある城壁にまで吹き飛ばされていったのでごじゃりまするよ……」

 ……とまぁ、そんなわけで。
 戦闘不能状態になったルービアス代わり、以後はイエロが厄災魔獣役をして、それにお客さん達が豆を小袋ごとぶつけていきました。
 進行役はヤルメキスが最後まで務めてくれました。

 で、この実演を見た子供達がですね
「パパ! お家であれやりたい!」
 って、言い出したりして、おかげで豆まきセットも無事完売した次第です。
 
 ちなみに、大人気だった厄災の蟹の身入りの恵方巻きは今日でいったん販売終了です。
 と、いいますのも、今日までの間で、蟹身の在庫が半分近くなくなっちゃったんですよ。
 このペースだと、あっと言う間に全部なくなってしまいます。
 厄災の蟹は滅多に出現しないレアモンスターらしいので、残りの蟹身は何かの時用に魔法袋に保存しておくことにした次第です。

◇◇

 さて、そんなわけでコンビニおもてなしの営業も無事終わった我がタクラ家でも、みんなで豆まきをしようという話になりました。
 せっかくなので、本店の二階にありますおもてなし寮のみんなも一緒にやることにしました。
 ブラコンベにありますコンビニおもてなし食堂エンテン亭と、そのブラコンベと本店横にあるおもてなし酒場がまだ営業中のため、テンテンコウや猿人娘四人組、イエロ・セーテンらがいませんが、イエロとセーテンがいないことに、むしろ安堵している僕がいるわけで……ははは。
 で、豆は、バラバラしないように小袋に入れてありまして、その小袋がいくつか入った升をみんなに配っています。
 豆を投げる側は、スアを筆頭としたタクラ家のみんなと、シャルンエッセンスを中心にしたおもてなし寮のみなさんです。
 で、鬼というか厄災魔獣役は僕が引き受けました。
 テンテンコウ♂がいないので、男が僕とリョータしなかったからなんですよ。
 まだ赤ちゃんのリョータに厄災魔獣役をさせるわけにはいきませんからね。

 と、言うわけで、僕は厄災魔獣のお面を被ってみんなの前に登場しました。
「さぁ、みんな!豆をぶつけるんだ!」
 って、僕が言うとですね。
「お、お兄様にそんなこと出来ませんわ!」
 と、僕の事を常日頃からお兄様と呼んで慕ってくれているシャルンエッセンスが号泣しながら座り込んでいきまして……
「い、いや、シャルンエッセンス。別に本気でぶつけなくてもいいんだし……」
「嘘でもそんなこと出来ません! えぇ、出来ませんわ!」
 と、お~いお~いと号泣し続けるシャルンエッセンス……

***しばらくお待ちください***

 え~、シャルンエッセンスを自室に連れて行って仕切り直しです。
 先ほどのシャルンエッセンスの痴態を見てしまったパラナミオやリョータが最初すっごく戸惑っていたんですけど、
 シャルンエッセンスの元メイド達こと、現2号店店員の皆さんがですね、
「「「シャルンエッセンスお嬢様の分まで厄災は外~!」」」
 って、声を揃えて僕に豆をぶつけまくってきたのが、いい感じできっかけになったらしく、
「厄災は外~!」
「あうあいあおお~」~訳:厄災は外~~
「あ~!」
 パラナミオ・リョータ・アルトも笑顔で僕に豆をぶつけてくれました。
 で、僕はまずおもてなし寮の中をぐるっと回り、次に巨木の家の中を回っていきます。
 そんな僕の後方を皆が豆をぶつけながら追いかけてきます。
 全ての部屋を周り終えた僕は、最後、巨木の家の玄関から外へ出ました、
 で、それを見た豆まき部隊の皆さんは歓声をあげています。
「厄災を無事追い払った~!」
「よっしゃ~!」
 ハイタッチをしたり、抱き合ったりと、みんな楽しそうにしています。
 その光景に、家の外に飛び出してた僕も思わず笑顔になりました。
 すると、パラナミオとリョータが僕のところに駆けてきます。
「パパ! 厄災魔獣はお終いです! お家にはいりましょう!」
「ぱぁぱ、おうかれさま!」
 そんな2人に手を引かれながら、僕は巨木の家に戻っていきました。
 そんな僕達を、豆まき部隊の皆さんが拍手で迎えてくれました。

 なんか……いいですね、こういう賑やかな豆まきも。

 ちなみに、この夜はあちこちの家から「厄災は外~」っていう元気な声が聞こえたみたいです。

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