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男と女のちょめちょめ事情 その2

 場所:ツメバ自宅内
 アパートの中は質素といいますかほとんど物がありません。
 それこそ、布団一組以外は、コンビニおもてなしで買って帰ったと思われるお弁当のゴミとかが布袋に詰めて部屋の端に置かれてるくらいで、あとは着替えが無造作に置かれてるだけですね。
 そんな中……
「じゃかぁしい! てめぇ、人の旦那寝取っておいて、ただで済むと思うんなねぇぞ!」
 般若顔で激怒し、くちばし攻撃を繰り出すチュンチュ
「だ~か~ら~、お話聞いてほしい、みたいな?」
 まるでパラパラでも躍ってるかのようなステップ踏みながらそれをかわしてるクローコさん。

 部屋の中では、よくわからない光景が繰り広げられている次第です。
「……私、もう帰っていいですか?」
「まってブリリアン……とりあえず話を聞くまでは一緒にいてくんないかな?」
 なんか、今すぐにでも帰ろうとするブリリアンを僕は必死に引き留めてます。
 誰だって嫌ですよ、こんな修羅場に取り残されるのって……ねぇ?

 で、当事者のツメバはクローコさんの木の棒の直撃くらってまだ気絶してますし、
 クローコさんはチュンチュと壮絶な格闘中というか、
「なんかあんだけ華麗にステップ踏んでたらむしろ楽しそうに見えてくるんだけど……」
「あぁ、同感だねぇ……」
「あ、やっぱ、そう思われます?」
「思うよぉ……玄関開けっ放しで、何やってんのかと思ってみれば……ねぇ」
 ……ん?
 ちょっと待ってください。
 僕とブリリアンの間に座って、クローコさんとチュンチュの大げんかを見つめてる、このサングラスかけてる黒づくめ女の人……誰ですか?
 僕、てっきりブリリアンと話をしてたと思ってたんですけど、この見覚えのない女性がさっきから僕に返答してたみたいなんですよね……で、どさくさ紛れに、ブリリアンの姿が部屋の中から消えてるし!
 で、この黒づくめの女の人に気付いたクローコさん、
「あ~!? 人でなし女がいつの間にか部屋にあがってる~みたいな!?」
 そう言うが早いか、手に持っていた木の棒を振り降ろしていきました。
 しかし、黒づくめの女は動じていません。
「いつもいつもやられてばっかじゃないのよねぇ」
 黒づくめの女はそう言って指をパチンとならしました。
 すると、その女の背後に控えていた男……あ、ゴーレムですね、真っ黒な……
 そのゴーレムがですねクローコさんが振り下ろした木の棒をガッシと受け止めてしまいました。
「ちょ!? 卑怯だし! ありえないし! くぬ~!」
 クローコさんってば、木の棒を必死に持ってるんですけど、その棒ごとゴーレムに持ち上げられちゃってるもんですから、足、じたばたさせる度に下着が丸見えで……ただでさえミニスカだからなぁ
「見せパンだし! 気にならないし!」
 なんか、僕の脳内感情を読んだかのようなタイミングでクローコさんが声をあげたわけなんですけど……

 で、

 ことここにいたって、チュンチュもようやく落ちつい……
「てめぇ! もう一人女こさえてたんか!」
 ……て、ないですね……
 チュンチュは般若顔のまま黒づくめの女にくちばしで突っつきかかっていきました。
 ですが、これが意外に効果がありました。
「ちょ!? 用心棒が2人なんてどういうことよ!?」
 黒づくめの女は、そう言いながら必死に後退っていきます。
 そんな黒づくめの女に、チュンチュは容赦なくくちばしを叩き込んでいきます。
 で、この黒づくめの女はですね、クローコさんほど華麗なステップを刻めないというか……どじょうすくい? 的な泥臭い足運びなもんですからことごとくチュンチュのくちばし攻撃をくらっていましてですね
「お、おぼえてらっしゃい!」
 最終的に、そんな捨て台詞を吐きながら逃げ出していきました。
 黒ゴーレムも、クローコさんを解放してその後に続いていきます。
 で、ようやく足が床についたクローコさんは、玄関に飛び出すと
「こんの悪徳金貸し! 二度とくんな!だし!」
 って言いながら、あっかんべ~をしています。

 って……え? 悪徳金貸し?

◇◇

 ようやくみんなが落ちついたところで、タイミング良くツメバも意識を取り戻しました。
「……あの、クローコさん」
「何? 店長ちゃん?」
「さっき言ってた悪徳金貸しって、どういうこと?」
「うん、あの女のことだし!」
「うん、それはわかったけど……だから、そんな人がなんでツメバの部屋にやってきてて、クローコさんもこの部屋にいるのか、わかるように説明してくれる?」
 僕がそう言うと、クローコさんはですね
「悪徳金貸しがチョベリバで、ツメバっちがあひょ~んになちゃったから、このクローコちゃんがはちゃあ! してね、でねでね……」
 僕は、身振り手振りを交えて熱く語り続けているクローコさんから視線をはずすと、ツメバへ視線を向けました。
「……ツメバ、説明を頼む」
「あ、はい」

 と、いうわけで……
 クローコさん熱演中の横でツメバが説明してくれた内容は、だいたい以下のような物でした。

 ツメバは、コンビニおもてなし四号店で働き続けてそれなりにお金がたまったもんだから、奥さんのチュンチュをここに呼び寄せようと考えたそうです。
 となると、家財道具なんかも運ばないといけないので、ポルーナを借りることにしたそうです。
 で、ポルーナのお金が、1万円~僕が元いた世界価格~だったそうなんですよね。
 で、当日
 ツメバは一人で指定されたポルーナ出発場所へ。
 で、そこはララコンベの裏山の奥深くという、奇妙な場所だったそうなんですけど……
 そこで、ツメバの前に現れたのが、さっきの黒づくめの女だったそうなんです。
「じゃ、ポルーナ代金を先払いしてくださいね」
 そう言われたツメバは、準備していた1万円~僕が元いた世界価格~を手渡したところ、
「お客さん、アタシ達舐めてんのかしら? ポルーナ代金は1000万円~僕が元いた世界価格~って約束でしたよね?」
「ええ~!?」
 で、当然そんなお金が払えないツメバは、ポルーナをキャンセルしようとしたそうなんですけど、今度は
「キャンセル代金として500万円~僕が元いた世界価格~いただきますねぇ」
 って、黒づくめの女は言い出したそうです。
 こりゃやばいと思ったツメバはすぐに逃げ出そうとしたそうなんですけど、そこにさっきいた黒ゴーレムの集団が現れてあっという間にツメバを取り囲んじゃったそうなんです。
 で、その結果……
 ツメバは
『500万円~僕が元いた世界価格~必ずお支払いします』
 って証書に無理矢理サインさせられたそうなんですよ……遅延利息も払わされることになって。
 で、その翌日から、あの女が毎日のようにツメバの家に遅延利息の日割り分を取り立てに来るようになったんだとか。
 で、それがあまりにも執拗だったもんですから、ツメバも日に日にやつれていったそうでして……

 そこで、店長代理のクローコさんが心配して事情を聞いたところ、この事態が発覚。
 で、クローコさん
「あとはクローコにおまかせ! みたいな」
 と、いつもの舌出し横ピースで宣言したそうなんです。
 で、クローコさんがやってたのが、さっきの木の棒でぶん殴って追い返すって行為だそうでして……

「あの女、いつも同じ時間にやってくるもんですから、その時間だけクローコさんが部屋にいてくれて、僕と一緒にあの女を追い払ってくれてたんです」
 ツメバは、シュンとしながらそう言いました。
「事情はわかったけどさ……なんで僕にも相談してくれなかったんだい?」
「いや……その………店長さんにこんなこと相談したら……首にされるんじゃないかって……クローコさんが」
「だしぃ……」
「いや……そんくらいのことじゃ首になんかしないし」
 僕は、シュンとしている二人を前に、思わず苦笑していきました。

 しかしまぁ、事情はだいたいわかりましたけど……借金ねぇ。
 聞いた感じ、僕が元いた世界なら、アダーレ法律事務所あたりに相談したら円満に解決して追い払ってくれそうな気がしないでもないというか、そもそも支払う必要もないよね、このお金? 的な案件ですよね。
 でもあれです……僕はこの世界の貸金業のことなんて全然知りませんし、悪徳商法云々に関してもどうしたらいいかなんて……
「……まてよ」
 そこで、僕はある事を思い出しました。
「金を扱ってるあそこの人なら力になってくれるかも……」
「はい、ご用事ですね?」
「え?」
「私達を呼ぼうとされましたね?」
「え?え?」 
 困惑する僕の背後に、新たな女性2人が、いつの間にか出現してました。
「魔女信用金庫の単眼族ポリロナと」
「同じく巨人族のマリライア」
「「お金絡みのご相談をかぎつけて、呼ばれる前に即参上!」」
 うん、確かに君たちを呼ぼうとしたけど……久々の登場だから? 気合い入りまくりのポージングだなぁ。

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