第71話 シーラーン王国の国王陛下だった件
ローゼマリアとジャファル、そしてラムジの三人は、ラクダに乗って砂漠を移動した。
「この時期は、日中の気温が四十五度を超える。昼間の砂漠は灼熱地獄だ。ここからのルートにはオアシスもないから、最短コースを迷わずに進むぞ」
ジャファルはアルファーシ王国の地理も、砂漠のこともよく知っていた。
彼の知識や経験はかなりのものだと言える。だからローゼマリアは、難しいことは考えずに、すべて任すことにした。
(わたくしはミストリア王国から、ほとんど出たことがないもの。ジャファルさまに頼るしかないわね)
ジャファルの先導により三日目の午後には、無事シーラーン王国へと続く国境にたどり着いた。
この国境付近も、バザールや宿屋、ちょっとした娯楽施設で賑わっている。
ラクダを売って馬を購入するとラムジが言い残し、十分ほどその場を離れた。
ジャファルはバザールに一切見向きはせず、ラムジが馬を二頭引き連れて戻ってきたら、すぐに国境の関所へと赴いた。
「一刻も早くシーラーン王国に入ったほうがいい」
三人は、アルファーシ王国を出国する国境を問題なく通りすぎた。
しかし、異変はシーラーン王国へ入国する関所で起った――
「はーい。旅券証を拝見。……ローゼ・アルマド・ラ・シーラーン? シーラーンという姓は王族のみの……ええ?」
国境兵が、噴き出すほどの冷や汗をかいて、ローゼマリア一行を見渡す。
ジャファルの顔を見て、国境兵が飛び跳ねんばかりに驚いた。
「こ、これは! 国王陛下! ど、どうして、こんなところに……!?」
「説明するひまはない。さっさと通せ」
「は、はいっ! 失礼いたしました」
国境兵が旅券証をローゼマリアに戻すと、深く頭を下げた。
ジャファルとラムジの旅券証は確認するつもりはないようで、そのまま国境の門を通り抜ける。
(待って。どういうこと? ジャファルさまがシーラーン王国の国王陛下? そんな……)
頭が混乱しそうになるローゼマリアの肩を、ジャファルがそっと抱き寄せる。
問いたげな表情で見上げると、彼が少し困ったような顔をしていた。
「気づいていなかったのか?」
「ええ……あ、でも……」
ジャファル・アルマド・ラ・シーラーン――
名前の末尾に国名が入るわけだから、王族である可能性がきわめて高い。
今更ながらそのことに気がつき、ローゼマリアは頭がパニックになってしまう。
(やだ……ちょっと考えたらわかることじゃないの。どうして気づかなかったの?)