第70話 ミストリア王城 アリスside 2
「宰相じゃないの。例のアレ、持ってきた?」
「もちろんですとも」
チャラ……と金属音を立てて、銅製の鍵を取り出す。
「アリス! それは……もしやっ……!」
「宝物庫の鍵よ。来週のお披露目パーティ用に仕立てているドレスに合うジュエリーを買おうと思ってね」
「アリス。それはいけない。宝物庫の中には、ミストリア王家が代々守ってきた由緒ある財宝が……」
「は? だったらぜーんぶ私のものでしょ? 次期王妃である、私の」
アリスでは聞き入れてくれないと思ったユージンが、宰相に向かって声を荒げる。
「勝手に宝物庫の鍵を持ち出すとはどういうことだ! なんの権限があって……」
「なにをおっしゃるのです? アリスさまがお求めのものを調達したまでのこと。ユージン王太子。あなたは、アリスさまを王妃に迎えるにあたり、願いごとならなんでも叶えると約束されていたではありませんか」
「それは、そうだが……いくらなんでも宝物庫の鍵を勝手に持ち出すのは……」
焦るユージンを無視し、アリスが宰相に話しかける。
「それで? ローゼマリアはどうなったの? 今、どこ?」
宰相はユージンから顔を背けると、アリスに対して恭しいお辞儀をした。
「はい。昨日、アルファーシ王国に逃げ込まれたと連絡が入りました」
宰相の報告を聞いたアリスは、奥歯をギリギリと鳴らして地団駄を踏んだ。
「あの女……どれだけ運がいいのよ!」
癇癪を起こした子どものように、床をヒールのかかとでガツガツ鳴らすアリスに、フォーチュンナイトたちは不穏な顔をするが、宰相はニコニコとしているだけだ。
「こうなったらローゼマリアより先に、シーラーン王国へ乗り込むわよ。私が彼を奪い取ってやる。全員、用意しなさい!」
「シーラーン王国に? 彼……とは?」
フォーチュンナイトが、いっせいにどよめく。
「『難攻不落のジャファ様』よ! 彼を私の下僕にするわ。ふふん。直接対面したら、どうにかなるわよ。攻略方法がまだ判明してないけどね」
ユージンが、恐る恐るといった調子でアリスに話しかける。
「さっきから、なんども出てくる『難攻不落のジャファ様』とはいったい?」
アリスは面倒くさそうに目を背けると、どこか夢見るような表情を浮かべた。
「あんたたちが束になっても適わない、最高級の男よ」
ユージンを含め、フォーチュンナイトが全員無言になる。
顔を見合わせて、なにか言いたげな表情をするが、誰も口を開かなかった。
そんな彼らの戸惑いに気がつかないアリスが、ケラケラと高笑いした。
「ふふ……すべての攻略キャラは、必ず私の言いなりになるの。だって、それがこの世界の
そんなアリスを、宰相は穏やかな笑みを浮かべ、十人のフォーチュンナイトは恐ろしいものでも見るような顔で固まっていた。
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