布とポルーナとウンジョウ街 その3
「最初に言っときますけど、今日はツエの月、僕が元いた世界で言うところの2月の1日ですからね。
え? いえ、別に……セツブン回が後回しになるからって、その言い訳をしてるんじゃありませんからね?
ほ、ホントですからね?」
「パパ、誰とお話をしているのですか?」
「え、あ、いや何でも無いんだよパラナミオ。これは大人の事情ってやつでね……さて、と……」
僕は改めて視線を前に向けました。
僕達の前には他の鳥人達よりも二回りくらい体が大きい七色の羽を持ってる老婆な鳥人が人なつこそうな笑顔を浮かべながら僕達タクラ一家の前にやってきています。
「私、このルシクコンベの代表をしております極楽鳥人(パラダイスバードピープル)のグルマポッポと申します……ぷひぃ」
「あ、私コンビニおもてなしの店長してます、タクラリョウイチと申します」
グルマポッポと名乗った老婆な鳥人が深々と頭をさげてくれたので、僕も自己紹介をして深々と頭を下げ返しました。
……しかし、ホント大きいですね、この人ってば……
「何もない辺境都市ですけど、まぁのんびり楽しんでいってくだされ……ぷひぃ」
そう言うと、グルマポッポは僕達を街の中へ連れて行ってくれました。
ルシクコンベの街中はなんといいますか、ほんとのどかといいますかファンタジーな世界といいますか……今まで見てきたこの世界の街とは全く別物でした。
僕達が着陸した場所以外のところは全て森林地帯です。
で、その木の上に皆さん小屋みたいなものを作っていて、そこで暮らしているんです。
森の中にはいたる処に小屋が林立している巨木もあるのですが、それが商店街なんだそうです。
「ちなみに、みなさんは飛べますかな?……ぷひぃ」
「あ~……家族はみんな大丈夫だと思うんですけど、僕だけ無理っすね」
僕がバツが悪そうな表情を浮かべながらそう言うと、グルマポッポはニッコリ笑い
「はいはい、ではこれをしっかり握ってくださいませ……ぷひぃ」
そう言って、自分の頭の上にファンキーな感じで延びている七色の毛を一本抜いて僕に手渡してくれました。
「え?……あの、これでどうやったらいいんですかね?」
「念じてくだされ、浮き上がれ!っとか、あそこに行きたい!とかでいいのです……ぷひぃ」
グルマポッポがそう教えてくれましたので、僕は指示通りにですね
(浮き上がれ!)
と念じてみました。
すると、握っている七色の毛が光り始めました。
次の瞬間……僕の体はすさまじい勢いで上昇していきました。
◇◇
「あぁ、すいませなんだ。『浮き上がれ』とだけ念じると、果てしなく上昇していくんでした……ぷひぃ。何しろ極楽鳥の羽を人様に差し上げたのも随分久しぶりですのでねぇ……ぷひぃ」
グルマポッポさんはそういいながら苦笑しています。
そんなグルマポッポさんの前で、僕は腰を抜かして地面にへたり込んでいます。
……いえね、成層圏って物があったのかどうかはまったくわかりませんが……僕の体はそれを突き抜けて、気がついたら真っ黒な空間にいたんですよ。
精神的に余裕があったらですね、振り向いて大地を見つめながら
「パルマは青かった」
とか、名言を残せたのかもしれませんが……何しろ呼吸が一切出来なかったもんですから、僕、パニクりまくったわけですはい。
スアが魔法で引き戻してくれなかったら、ホントどうなっていたことやら。
……あ、でもスアさん?
僕、無事帰還したんだから、その右手に発生させている物騒な魔法の球は引っ込めようね?
僕さ、魔法のことはよくわかんないけど……それぶっ放したらルシクコンベ一発で消し飛ぶよね?
「……旦那様殺そうとした……コロス」
いや、だから、グルマポッポさんも悪気があったわけじゃないんだからさ……多分。
で、必死に説得しまくって、どうにかスアの怒りを静めた後、僕はグルマポッポに本題を切り出しました。
「いえね、今日来たのはこの都市でいい布を仕入れることが出来ると聞いたからなんですよ」
「ほう、布を……でございますか……ぷひぃ」
すると。グルマポッポは少し困った表情を浮かべました。
「布をお譲りすることはやぶさかではないのですが……それには条件がございます……ぶひぃ」
「条件?」
で、グルマポッポが言った条件と言いますのが……
・布は物々交換
・定期的に交換にやってくること
この2つなんですよね。
物々交換なのは、このルシクコンベの中には貨幣が流通していないからです。
森で狩ってきた獣の肉を栽培した野菜と交換……みたいな感じですべてが物々交換で成り立っているそうなんですよ、この都市の流通は。だから、それに従って欲しいとのことでした。
で、定期的に……というのはですね、
「布を作るとなると、一定期間その作業だけに従事せねばなりませんのじゃ……じゃから、その間は畑の世話も出来なくなりますし狩りにも行けませぬ……かといって、都市の皆は布などいざとなれば自分で作れますゆえ物々交換の対象として認めてくれませんのですじゃ……ぷひぃ」
「あぁ、だから定期的に来て、布と物資を交換してあげないと、布作成作業に従事してくださった方が困っちゃうんですね?」
「そういうことですのじゃ……ぷひぃ。ですがのぉ……」
そう言うと、グルマポッポは困った表情を浮かべながら再び首をかしげました。
「……実は、今までにも『約束を守ります』と言っておきながら、約束どおりに再度この街にやって来た方はおられませんでなぁ……ぷひぃ。なので、皆も布作成に応じてくれますかどうか……ぷひぃ」
そう言ってグルマポッポが後方を振り向くと……グルマポッポの言葉の正しさを示すように、鳥人の皆さんが一斉に後ずさったんですよ。
でもまぁ、そうですよね。
毎回ポルーナを使ってここまでくるってすっごい手間ですからねぇ……二度と来なかった人達の気持ちもわからないではありません。
(こりゃ手こずりそうだなぁ)
僕は困惑の表情を浮かべました。
すると、その時です。
「私が作るっぴ!」
そう言って僕達の前に飛び出してきたのは、ピルピナでした。
「ピルピナ、パラナミオと友達っぴ。友達のパパのためなら頑張るっぴ」
そう言って笑顔で両手の羽をわさわささせています。
いや、しかし……申し出はありがたいんですけど……ピルピナって、どうみてもパラナミオと同じくらいの年齢にしか見えないんですよね。
そんな女の子にお願いしてもいいものかどうか……と、僕が思案していると、
「ふむふむ、都市一番の布の作り手のピルピナなら問題はないじゃろう……ぷひぃ」
グルマポッポは笑顔でそう言いました。
「え? 都市一番の?」
「うむうむ、ピルピナも布作りを始めてもう50年にもなりますからのぉ……ぷひぃ」
「は!?」
グルマポッポの言葉に、僕は唖然としました。
で、この後、グルマポッポに説明してもらってようやくわかったのですが……
鳥人達って、空を飛ぶために体を極力軽量化させているそうなんですけど、そのせいで小柄な人が多いもんですから、結果的に実年齢より相当若くみえるんだそうで……ってか、ピルピナ、僕より年上だったのか……
ちなみに、グルマポッポぐらい生きていると相応の貫禄ある体になってしまうんだそうで……ってか、となるとグルマポッポって何歳なんだ、一体……
というわけで、ピルピナはですね、早速布のサンプルを作ってくれると言って、自分の家に僕達を連れていってくれました。
ピルピナの家は都市のはずれの木の上にありました。
「布、織ってる時は、絶対のぞいちゃダメっぴよ」
と、僕がどこかの昔話で聞いたことがあるような言葉を言って、ピルピナは家の中に入って行きました。
ほどなくして……家の中からすさまじい音響が発生し始めました。
それは、なんといえばいいのでしょうか……デスメタル?
なんか、そんな大音響が家の中から響き渡ってきています。
「我ら鳥人が布を織る際には、あのようにちょっと大きな音がしますので、布折り技術を持った者はこうして都市のはずれに家を構えております……ぷひぃ」
「あ、あぁ、そうなんですか……」
僕が、グルマポッポの説明を聞いていると……その大音響が止みました。
同時に、ピルピナが家から飛び出してきて僕達の前に舞い降りました。
「はい、パラナミオちゃんのパパ、これ布。試作でちょっとだけ作ったからすぐ出来たっぴ」
そう言って渡された布は……うわ、これすごいです。
シンプルな青い布なんですけど、まるで絹のようになめらかな手触りでして……っていうか、こんな布を作るのに、なんであんな音がするのか合点いきませんが……とにかく、この布ならぜひ欲しいと思った訳です。
……となると、物々交換の品物が必要人なるわけですけど……
「ピルピナ、食べ物がいいっぴ!」
ピルピナがそう言うもんですから、僕は昼食用に準備していたコンビニおもてなしでいつも販売している弁当を1つ、ピルピナに渡してみました。
「とりあえず、試作品の代わりにこれでどうだろう?」
僕から弁当を受け取ったピルピナは
「わ~い、美味しそう!」
嬉しそうにそう言うと、腕の羽を取り外して……って、え? それ取れたの!?
で、その下から出現し手でフォークを使って肉を一切れ口に運んでいったのですが……