布とポルーナとウンジョウ街 その4
僕が元いた世界ではですね……鳩に餌やりをすることが出来る公園とかあったんですよね。
でも、そういうとこって、油断してのんびり餌を手の平にのせてると、あっという間に鳩が群がってきてとんでもないことになることがよくあったんですよ。
え? なんで今そんなことを思い出しているんだって?
……いえね……今、目の前でですね、それによく似た光景が繰り広げられているんですよ。
先ほど、僕が布の物々交換の品として手渡したコンビニおもてなしの弁当をですね、ピルピナは
「わ~い、美味しそう!」
って、笑顔で口に入れていったんですよ。
で、しばらくそしゃくした後、ごっくんと飲み込んだんですけど……ピルピナってば、そのまま放心状態に陥っていったんですよ。
「お、おい、大丈夫かい?」
心配した僕が、慌てて肩を揺さぶると、ピルピナはハッと我に返りました。
そして、一度大きく息を吸い込むと
「お~いし~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
って、その真正面にいた僕の短めの髪が後方にたなびくくらい、でっかい歓喜の声をあげたんです。
その途端です。
ピルピナの様子を周囲でうかがっていた鳥人の皆さんがですね
「そんなに美味しいホウ?」
「私にも少しわけてほしいケキョ」
「私も私もピュロロ~」
我も我もと、ピルピナが手にしているお弁当に群がり始めたんです。
で、あっという間に、ピルピナの周囲は阿鼻叫喚の……
……はい、というわけで、その光景を見つめている僕の脳裏にですね、鳩に囲まれまくってびびって泣き叫んだ過去の記憶が蘇ってきたわけです、はい。
で、まぁ、あまりにもピルピナが可愛そうなので、鳥人のみなさんにはスア達家族用に持って来ていたお弁当をお渡ししまして
「皆さん、これを仲良く分けてお食べくださいな」
ってことにしまして、で、その中の1つはピルピナに改めてあげました。
「え? いいのっぴ?」
「そりゃそうだよ。これは布の試作品の物々交換の品物なんだからさ」
僕はそう言って笑いました。
すると、ピルピナはパラナミオへ視線を向けると、
「パラナミオちゃんのパパ、すごく優しくて素敵っぴ!」
「はい、パラナミオのパパはすごく優しくて素敵です!」
なんか嬉しそうにそんな会話をし始めました。
はは……なんか照れくさいですね。
で、ピルピナは、改めて
「いただきますっぴ!」
って、いいながらお弁当を食べ始めました。
で、その周囲をですね、他の鳥人さん達が物欲しそうな顔をしてのぞき込んでいるんです。
……いえね、集まっている数十人に対して、弁当が3つしかなかったもんですから、あっという間になくなっていたんですよ。
「あぁ、ダメですよ。これはピルピナのですからね」
僕は、慌ててそう言いながら他の皆をけん制していきました。
すると、鳥人さん達、何を思ったのかいきなり駆け出していきました。
全員同時に回れ右して、思い思いの方向へ走っていったんです。
で、しばらく後……
あちこちから、あのデスメタル音が響きはじめました。
一箇所や二箇所じゃありません。
同時に何十箇所で、デスメタル音が発生しています。
これには、スアやパラナミオ達も思わず耳を押さるしかありません。
すぐにスアが音量軽減魔法をみんなにかけてくれたので、楽になったんですけどね。
で、このデスメタル音は、程なくして、ほぼ一斉に終了しました。
すると、今度は先ほど四散していった鳥人さん達が一斉に戻って来ました。
皆、手に布を持ってます。
さっきのピルピナがくれた布とは色違いだったり、生地が違ってたりと、様々な布を手にしている鳥人さん達は、それを僕に向かって一斉に差し出して言いました。
「「「私達とも物々交換してくださいケキョ」ホゥ」ピピー」ア~」……」
ただ、布の交換を申し出てもらえるのは嬉しいんですけど……交換品の弁当がもうありませんからね……さてどうしたもんか……
僕が悩んでいると、その横でスアがおもむろに魔法陣を展開し始めました。
すると、ピルピナの家がのっかっている巨木の幹にですね、転移ドアが出現しました。
で、それを開けるとその向こうにはガタコンベの街にあるコンビニおもてなし本店の厨房が広がっていたんです。
そうでした。
スアの転移魔法って、一度行った場所にならどこへでも接続出来るんでした。
で、ここ、ルシクコンベには来たことがなかったスアですけど、今はもうこうしてやって来ているわけです。なので、お店に転移ドアをつなげることも可能だったわけですよ。
と、言うわけで、転移ドアをくぐってコンビニおもてなしの厨房に戻った僕は、材料を集めてお弁当を作っていきました。
で、そんな僕の様子を、興味津々な様子で転移ドアの向こうから眺めている鳥人の皆さん。
なんか、そのままこっちになだれ込んできそうな様子だったんですけど、そこはスアがですね、戸の入り口に結界を張ってくれたので、皆さんがこっちになだれ込んで来て、調理途中のおかずとかにとびついて食い荒らしちゃうというベタな展開にはならずに済みました。
で、とりあえず30個の弁当をこしらえた僕。
「パパ、お手伝いします!」
そう言って、パラナミオが弁当をいくつか運んでくれたのですが、
「ムツキも手伝うにゃしぃ」
いつもお風呂時間にしか起きないムツキも、赤ちゃん形態から少女形態に変化して手伝い始めてくれました。
で、スアもアナザーボディを駆使して弁当を運んでくれたもんですから、輸送作業はあっと言う間に終了しました。
で、鳥人の皆さんは、布と弁当を交換すると早速弁当にむしゃぶりついていきました。
さっき中途半端にしか食べることが出来てなかった皆さんは歓喜の声をあげまくっています。
「やっぱりうまいです、これ、すっごくうまいですぴゃあ!」
「こんな美味しいお弁当産まれて始めてッコ~」
と、皆さんすごく喜んでくれています。
確かに、コンビニおもてなしでも大人気のタテガミライオンの肉を使用してますんで、人気なのも当然なんですけど……
で、さらにこの弁当の噂を聞きつけた皆さんがですね、布をこしらえては駆け寄ってきて
「私にも弁当くださいグア!」
「私にもピヨ!」
と、次から次へと物々交換希望者がやってくる始末でして……
結局、この後の僕はですね、再度コンビニおもてなしの厨房に戻りまして、お休みなので部屋で休んでいたルービアスや、テンテンコウ♂達に手伝ってもらってお弁当を作り続けていきました。
布との物々交換希望者が一段落したのって、日暮れ近くになってでした。
転移ドアが開通しましたので、今後の行き来に支障はなくなりましたけど、今日みたいに際限なく交換を希望してこられると、さすがに困ります。
ですので、僕はこの街の代表のグルマポッポと相談しまして、毎週末に一回、転移ドアの前で物々交換会を開くことになりました。
ただ、今日みたいに無秩序にこられたら混乱しますし、弁当をいくつ準備すればいいのか検討がつきません。
ですので、グルマポッポに、事前に交換希望の布の数を取りまとめてもらい、交換に必要な弁当の数を事前に教えてもらうことにしました。
今のところ、交換の品は弁当のみですけど落ちついてきたらヤルメキスのスイーツなんかも試してもらって希望者がいたら交換可能品に加えるのもいいかもしれません。
話はこれでまとまりました。
転移ドアは、鳥人さん達が勝手に使用しないようにルシクコンベ側からはグルマポッポしか使用出来ない設定にしてあります。
これは、グルマポッポさんの希望でもあったんですよね。
「鳥人達はですな、掟で下界にやたらと出向いてはいかんことになっておりますのでね……ぷひぃ」
「あぁ、そうなんですか」
と、まぁ、僕は一応納得したんですけど、
「……あれ? 四号店のツメバって、燕人だから鳥人じゃなかったっけ?」
そんなことを思い出したわけです。
「ん? どうかなさいました……ぷひぃ?」
「あ、いえいえ、何でもありません」
僕は、一応ごまかしときました。
まぁ、偶然かもしれませんし、そもそもツメバはこの都市の出身じゃないかもしれませんしね。
本来なら転移ドアで帰ればいいんですけど、せっかくポルーナがあるので、今日はポルーナで帰ることにしました。
ポルーナからの景色はなかなかのものでしたしね。
僕ら一家は、ポルーナのところに戻ると、出発準備を整えていきました。
「パラナミオちゃん、また来てねっぴ!」
「はい、ピルピナちゃん、また絶対きます!」
今日一日ですっかり意気投合したパラナミオとピルピナは、キャイキャイ言いながら跳びはねています。
……見た目は同い年っぽい2人ですけど、ピルピナって僕より年上なんですけどね……ははは。
で、準備が出来た僕らは、籠に乗り込んでいきました。
「じゃ、次回からは転移ドアで来ますんで」
「今後ともよろしくです、タクラ店長さん……ぷひぃ」
そう言ったグルマポッポさんを中心に、鳥人の皆さんに見送られながら僕らを乗せたポルーナはゆっくりと浮かんでいき、やがて下界に向けて降下をはじめました。
ピルピナをはじめとした鳥人の皆さんは、しばらく空を飛んでポルーナに併走してくれました。
そんな皆さんに、僕ら家族は皆で手を振っていきました。
程なくして、鳥人の皆さんは名残惜しそうに引き返していきました。
そんな鳥人の皆さんが見えなくなるまで、僕らは手を振っていました。
「……なんか、いいとこ、ね」
スアが、僕に寄り添いながらそう言いました。
「うん、そうだね」
僕は、スアの肩を抱き寄せながらそう答えました。
すると、そんな僕達にパラナミオとリョータが抱きついて来まして
「パラナミオもそう思いました」
「おーたも……」
そう言いました。
よく見ると、スアにおんぶに抱っこされているムツキとアルトもスアに抱きついています。
なんかタクラ家名物家族の輪がポルーナの籠の中で出来上がりました。
そんな僕達を乗せたポルーナは、夕陽を浴びながらガタコンベ目指してゆっくり下降し続けていました。