バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第56話 ジャファルと一緒にバザール散策

 すぐさまラムジが手綱を引き寄せると、馬を進ませる。
 こうして3人は、騒ぎを起こすことなく国境の門を通り抜けた。

(心臓がドクンドクンと激しく高鳴っているわ……聞こえなければいいのだけど……)

「ふう……」

 冷や汗が額から流れ、そっと手の甲で拭う。

「ローゼマリア。まだ窓から見える距離だ。気を抜かず堂々としていろ」

「は、はい……」

 ローゼマリアは周囲を窺いながら、馬車の中で無表情を装った。
 国境を越えたら、そこはアルファーシ王国だ。
 ミストリア王国からシーラーン王国へは、整備された街道を馬車で移動すれば、2日で到着するという。
 だがここは、あえて遠回りをし、アルファーシ王国の砂漠を横断すると、ジャファルは決断した。
 すでにアリスたちには、彼がシーラーン王国の人間だと知られている。
 最短ルートを使えば、待ち伏せされるだろうと推測したのだ。

「シーラーン王国に入るまで油断はならない。慎重に、かつ俊敏に進行する」

(ゲームの舞台は主にミストリア王国内だったから、アルファーシ王国のこともシーラーン王国のこともまったく知らないわ。……というか、ゲームに登場しない国や人物も、この世界では存在しているのね。不思議……)

 ローゼマリアとジャファルは、大きなヤシの木の下で馬車から下りた。

「ここからは砂漠横断だ。ラムジ」

「はい」

 ラムジがジャファルの前にきて、小さく頭を下げる。

「ラクダの手配を頼む」

「かしこまりました。では30分後に落ち合いましょう」

 彼はそう言うと、人混みに紛れてしまった。
 ラムジの姿が見えなくなると、シーラーン王国までの道のりに、いろいろな不安が沸いてくる。

「ラクダ……ですか? わたくし、乗ったことはありません。砂漠の移動も初めてですわ」

「大丈夫だ。私が一緒に乗る。砂漠は、オアシスの場所さえ頭に入っていれば、そう危険な場所ではない」

「そうでございますか」

「ラムジがラクダを調達する間、時間を潰すか」

 ラムジが視線を向けた方向へ、ローゼマリアも顔を向ける。
 旅行客や行商隊のために、土産物を買う店や休憩所、宿屋などが建ち並んでいた。
 賑わいのあるバザールに、ローゼマリアは興味津々になってしまう。

「わたくし、散策したいですわ。バザールを見るのは初めてですから」

 楽しそうな雰囲気に浮き足立つローゼマリアを、ジャファルが愛おしいものでも見るように笑う。

「いいぞ。しかし、私のそばを離れるなよ」

「はい。ジャファルさま」

 ジャファルとともに、バザールの人混みへと向かう。

しおり