空の散歩
空を飛ぶ。空を飛ぶ術を持たない人はそれに憧れるらしく、どうにか空を飛ぼうと古来より色々と試行錯誤がなされてきた。
時には道具で、時には魔法で、時には飛行可能な生き物の背に乗って。とにかく様々な方法が試され、その多くは失敗に終わった。しかし、中には成功したモノもあり、その代表が魔法だろう。
とはいえ、その魔法も飛行時間が短く、飛行距離も高度も大したことが無かった。それこそ、高所から疑似的な羽を装着して滑空した方が長く遠くまで飛べたほど。
それでも自力で飛ぶという面ではやはり魔法しか成功例がなく、道具ではよくて疑似的な羽を付けての滑空。道具を用いた自力飛行はまだ完成していなかった。なので、最も現実的なのが、飛行可能な生き物の背に乗るという方法。しかし、人を乗せて飛行可能な生き物は種類が少なく、また凶暴なのが多くて飼いならすのは困難を極めた。
もっとも、世界によっては既に飛行出来る道具というのは完成している。それも飛行可能な生き物よりも長く高く速く飛べるというほどに完成していた。更にはそれ以上にも発展しているのだが、そこまでいくのはある程度成熟した世界に限られてくる。ことハードゥスに限って言えば、魔法か滑空かといったところだが。
そんな中、れいはシエルーチュに乗って大空を進む。途轍もなく巨大な亀であるシエルーチュにれい一人が乗っているというのは、広大な平地に一人佇んでいるような寂しさがある。
しかし、周囲の光を操れるシエルーチュに掛かれば、そんな広大な背に乗っている状態でも、地上や周囲の様子を観ることが出来る。もっとも、そもそもれいは単独で飛行可能なので、景色を楽しむだけならそうしているだろう。
現在れいは、シエルーチュを愛でるついでにシエルーチュの乗り心地を堪能している最中であった。気分はラオーネ達の背に乗っているのと大差ないが、空に浮かぶシエルーチュを愛でるならこちらの方が効率がいい。
搭乗者の姿もシエルーチュが隠しているので、地上からは誰も視認出来ない。光を迂回させているので周囲は真っ暗なれど、そんなことは気にせずのんびりとした航行を楽しみながら、れいはシエルーチュの背を撫でる。
シエルーチュの背中はゴツゴツとした硬い背中なれど、それは岩のような感じではない。手触りも良好で、上質な布のよう。
見た目はのんびり泳いでいるが、その飛行速度は結構出ている。しかし、それに関してはシエルーチュが周囲の風を操っているので問題ない。
シエルーチュの能力は、何も飛行と光の操作だけではないのだ。というよりも、強さで言えばシエルーチュはれい以外には負けないほどに強い。それに比するように、能力も結構万能でもある。やろうと思えば、自身の大きささえ思うがままに変更できるのだが、それは今のところ必要性が感じられないので行っていないだけ。
かなり巨大な世界であるハードゥスを一周ちょっとしたところで、れいはシエルーチュの背から降りた。愛でる時間が丁度一周分と少しになるように速度を調節させていたのだ。愛で時間は全てのペットで同じだけ確保している。
シエルーチュを愛で終わった後、背中から降りたれいは、その勢いのままに漂着物を集めた一角の海の中に入っていく。
ペット達を愛でる順番は陸→空→海として、シエルーチュの愛で時間には、ラオーネ達を愛でた後にモンシューアの棲む海までの移動もついでに含まれている。
そうしてモンシューアの住処近くの海の中に入ったれいは、モンシューアも同じだけ愛でるのだった。