バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

新しいペット

 れいが新しいペットを創造しようと考えてから少し時が過ぎた。
 あれから色々とこなしながらも、れいはどんなペットを創造しようかと思案を続けた。決まっていることと言えば、空を飛ぶことぐらい。ついでに上空を生活圏とするべく常に浮いていることもか。
 要は雲のような存在ということだが、それに関してはれいにとっては難しくはない。悩んでいる内容も能力についてではなく、どんな姿形で創造するかというだけなのだから。
「………………ここは海の生き物を模すというのもいいかもしれませんね。それか幾つかの存在を掛け合わせて創るか。無論、新しい何かを創造するのでもいいのですが」
 平坦な声音ながらも、不思議と困ったというのが分かる呟きを漏らしたれいは、空を見上げながらどういったモノがいいのかを考える。いっそ生き物以外を模してもいいだろうとも。
「………………雲をそのまま模せば、擬態にもなりますかね?」
 れいは結構気合を込めて創造するつもりなので、そんな存在に敵から身を護るための擬態が必要なのかどうかは分からないが、一つの案としてはそれでもいいだろう。色々と考えてはいるが、実はれいにそこまでこだわりはないのだから。
「………………それとも目立った方がいいのでしょうか?」
 誰に問うでもなく、そう口にする。そうすることで何かアイデアが固まらないだろうかと期待しながら。
 しかし、そう直ぐに決まるモノでもないようで、幾つかの候補に絞りながらも決め手に欠けた。それからまたしばらく時が流れ、そろそろ創造しようかと思ったれいは、気に入らなかったら創り直せばいいかと考えを改めた。
 創造する場所は、念のためにペット区画。漂着物を集めた一角からは距離を取った場所での創造とする。
「………………さて、始めますか」
 ラオーネとヴァーシャルが遠巻きに眺める中、れいは傍らに力の保存装置を一つ置き、上空に新たなペットを創造する。与えた力は、現状の肉体に籠められた七割ほどの力。れい本来の力の量で考えれば、それでもほぼ力を使っていないに等しい。
 新たなペットを創造したれいは、傍らの保存装置から消耗した力を補充する。わざわざ外部から補充する必要はないのだが、これも実験の一環のようなもの。
 即座に力の補充を終えたところで、保存装置を異空間に仕舞う。それから上空の方に視線を向けた。
 新しく創造した存在は、雲のようにふわふわとした甲羅を持つ亀。通常の亀とは甲羅の上下が逆だが、それは生活圏が地上ではなく上空だからだろう。もっとも、普通の亀とは異なり、上下どちら側でも硬いのだが。
 ふわふわとした見た目の甲羅だってかなりの硬度を誇るので、容易に傷つけることすら敵わないだろう。そして、上の平らな部分も同様に硬い。
 そんな甲羅から出ている手足はとても太くて大きい。ただ、甲羅と比べると短いようだ。頭の部分は手足よりも大きいが、こちらも短め。尾っぽの方は手足よりは小さかった。
 のんびりと上空に浮かんでいるそれだが、とても巨大な体躯なので、それなりの高さに浮かんでいるというのに、下から見れば天に蓋でもしたかのように思えてくる。
 れいがその影から見上げていると、相手も首を下げてれいの方に顔を向けた。
「………………」
「………………」
 しばらく見つめ合うれいと亀。その様子を眺めながらも、ラオーネとヴァーシャルは上空から押しつけてくるような存在感に身が縮む思いをしていた。
「………………では、名前を付けましょうか」
 話し合いが終わったのか、れいがそう告げると亀はゆっくりと頷く。それだけで風を切る音が聞こえてくる。どうやら今回は最初から従順らしい。
 れいの声がよく届くなと思うような光景だが、その辺りは力を介して相手に届けているようだ。わざわざ声に出したのは、ラオーネとヴァーシャルに解るようになのだろう。
「………………貴方の名前は、シエルーチュ。空征く亀という意味合いです」
 れいの言葉に了承するように、シエルーチュは一度大きく頭を持ち上げた。
「………………後は好きなようにこの空を泳ぐといいでしょう」
 そうれいが告げると、シエルーチュは空を泳いでいく。それと同時に姿が消えた。シエルーチュの姿が消えると、地上に出来ていた大きな影も消える。
 実はシエルーチュは、自身の周囲の光に干渉することが出来るので、それにより周囲から自身の姿を消すことが出来る。その能力を使い、上空の光を屈折させて身体を迂回させてから下に通せば、姿だけではなく地上の影も消せるのだった。
 その能力のおかげで、巨体ながらも容易に見つけることができないので、空を飛んでいる姿を漂着物を集めた一角の住民に目撃されて、変な不安を抱かせることはないだろう。
 その結果に満足げに頷くと、れいはやることがあったので、漂着物を集めた一角の方に戻るのだった。

しおり