マリーと惑星ウィズエル Fractal.1
ツェレーク艦内を並び歩くウチとリンちゃん。
ヴィシウム合金製の通路は、抗菌的ながらも簡素な殺風景や。上部の角には〈ハイ
「ったく、エルダニャのせいでトンだ二度手間負ったわよ」
うんざりとした心労に、リンちゃんが愚痴った。
向かっとるのは、マリーの部屋や。
さっき帰還した〈惑星ジェルダ〉に関する報告と、新たにゲットした〈ネクラナミコン〉を届けに行く途中や。ついでに、これまでの解析進行具合も確認しに行くねん。
これまでも惑星探索の事後処理としてやってきたルーティーンやねんよ?
「せやけど、何やかんやで〈ネクラナミコン〉集まったねぇ?」
「まぁね」
「あと何個やっけ?」
「確かクルの話だと全部で六つ。で、惑星ジェルダでクルがひとつゲットしたし、ドク郎のも強奪したから……あと
……リンちゃん、いま〝強奪〟言うた。
「全部集まったら、どないなるんやろ?」
「ん~? 当初、クルが言ってたのは『神の
「毎日、抹茶パフェやねんね?」
「……違うッつーの」
リンちゃん、何で苦虫顔なん?
「全部集まったら、リンちゃんは何を実現するん?」
「え? ア……アタシ? そ……そりゃあ、その……」
急に振られたんで予想外だったのか、リンちゃんはしどろもどろになった。
せやからウチ、助け船出したったねん。
「毎日、イチゴパフェ?」
「違うわ!」
喰い気味に怒られた。
何で?
「でも──」リンちゃん、急に思索を紡ぎだした。「──
「どして?」
「正直、かなり
「クルちゃん、そう言うてたよ?」
「……
「嘘? せやけど、クルちゃん言うてたよ?」
「そりゃそうなんだけど……
「そんなんアカン!」
「……よね。やっぱ」
「クルちゃん疑ったらアカン!」
「
「クルちゃん、嘘つくような子やあらへん! 博士のサインも、きっと付いとる!」
「いや、それはないけど……」
「クルちゃん、友達や! それやのに、クルちゃん嘘つき言うたら……リンちゃん……ふぐっ……リンちゃ……グス……ふぇぇぇ~~ん! そんなリンちゃんキライや~~! ウチ、そんなリンちゃん見たない~~! ふぇぇぇ~~~~ん!」
「な……泣くなッつーの!
「イ~ヤ~やぁ~! ふぇぇぇ~~~~ん! うわ~~~~ん!」
「わかった! わかったッつーの! もう言わないから!」
「グス……グス……ホンマ?」
「……たぶん」
「うわ~~~~ん!」
「わかった! わかったから!」
「グス……グス……クルちゃん、嘘つきやない?」
「う……ん」
「サイン付いとる?」
「いや、それはない」
「うわ~~~~~~~~ん!」
「わかった! 付いてる! 付いてるから!」
「グス……グス……えへへ ♪ せやったら、ええねん ♪ せやからウチ、リンちゃん大好きやねん★」
「あー……うん……」
「ほんなら、行こ?」
「は? どうした?
「クルちゃんトコや」
「何で?」
「ごめんなさい言うて
「唐突に謝られても
マリーの部屋に着いた。
「マ~リー、開~け~て★」
「小学生の『あ~そ~ぼ★』言うみたいに呼ぶな」
何で?
ええやんな?
「マ~リー!」
……返事無い。
「マ~~リー!」
……やっぱり返事無い。
「おらへんね?」
「留守? おかしいわね?」
「何で?」
「マリーのサイクルは把握してるもの。この時間は個人的な研究時間に割いているはず」
「毎回、時間通りとは限らんやん?」
「それを指摘されれば、何事もそうなんだけど……少なくとも、アタシ達が出会ってからは狂った試しが無いわよ」
「ほんなら何処行ったんやろ?」
「さて……って、あれ? 電子ロック開いてる?」
「ドアの?」
「うん。変ね? パス掛けないで出るなんて?」
そう
ウチ、続いた。
「「ぅわ~ぉ」」
入るなりの第一声は、
メチャ散らかってんねん。
衣服とか投げっぱなしグチャグチャやねん。
食べ掛けお菓子が湿気とんねん。
「いくら
「レスリー長官でも?」
「いや、あのド腐れ変態は大丈夫っしょ? 基本、乳さえあればいいから」
リンちゃん、
腰に手を当てたリンちゃんは「ふむ?」と室内を見渡した。
ヒント探してんのやろね?
ウチ、邪魔にならないように、ソファに散らかった衣服の
ん? 何やコレ?
……ブラや!
特大丸豆腐の空容器が落ちてる思うたら、これブラや!
デカッ!
「何か手掛かりになる物は……と」
リンちゃんはのんびりと物色始めた。
気楽な態度からは、まったく焦燥が汲めへん。
まぁ、マリーやからね?
別に大事件いう事もあらへんやろし。
「あれ? 何だコレ?」
パソコンのデスクトップで足を止めた。
丁度、ウチも畳み終えたんで、トコトコと脇へ並ぶ。
そこに書かれた
──探さないで下さい。
「「…………………………うんんんッッッ?」」
予想外の非常事態に、ツェレーク
もちろん、ウチとリンちゃん……そして、クルちゃんも。
「なるほど……状況は把握した」
詳細説明を受けたクルちゃんが淡白に納得する。
この非常事態に在っても全然ブレへん辺り、さすがやねんね?
周囲の大人達は悲観と不安にオロオロしとんのに、一番頼もしいねぇ?
「ああ、マリー艦長……いったい何処に?」
メインオペレーター〝
せやねん。
いつも「何
ショートポニーテールの似合う
ウチとリンちゃんからしたら、マリーよりも年齢近いから〝気さくに何でも話せるお姉ちゃん〟いう感じや。
「ナレミお姉ちゃん? 落ち着いて?」
「で……でも、モモカちゃん!」
「
「
せやの?
「マリー艦長は、この〈ツェレーク〉の所有者であり、最高責任者であり、運行権限者……そして、あなた達〈コスモウィズ・スクール〉の校長先生であり出資運営者! つまり、この艦の
「えへへ~ ♪ 学校、おやすみや★」
「違うよッ? その通りだけど違うよッ?」
どっちなん?
改めて見渡せば、みんな頭
そんな不毛な混乱の中──「
リンちゃんや!
腰へと両手を添えた仁王立ちに、威風満々の
「大の大人が
「そ……それは……」「う……む……」
この辺、さすが
堂に入った
「リンちゃんの言う事は……分かるけど……」
弱音を
せやせど、リンちゃんは自信に満ちてポニーテールを
「アタシを誰だと思ってるの? アタシは〈星河コンツェルン〉の娘〝天条リン〟よ! 不可能なんて無いんだから!」
そして、キビキビと今後の指針を打ち出す。
「いい? まずは
「そ……そうか」「うむ、そ……そうだよな?」
「けれど、非常事態が起きたら?」
「ンなモン、早々は起きない! もちろん断言はできないし、そのままにはしておけない……から、臨時代役を立てるわ」
「臨時代役?」
「そ。信頼できる人材を……ね。少なくとも大局的な指揮能力に
「
ハッちゃん入って来た!
この場に呼んどらへんハッちゃんが、勢いよく飛び込んで来た!
「エエエエルダニャ? アンタ、どうして此処へ?」
「フッ……水臭いのぅ? リンよ? どうにも
噛んだ……っていうか、軽くダイエット計画入った。
「違うわッ! ってか、誰だーーッ!
「フッ……やはり気付いておらなんだか?」
「は? 何がよ?」
「
塩
ウチとリンちゃん、恐々ダンスながらに塩で清めた!
「幽霊を発信器代わりに使うな!」
「〈ゆーれー〉とやらではない! 有能な〈専属整備員〉じゃ! ただ〝姿が見えぬ〟だけの〈専属整備員〉じゃ! あとは〝神仏を恐れる〟〝
「さて、事情は分かった……任せよ、リンよ! このハッちゃん、気高き〈女王〉の名に懸けて指揮能力を惜しみ無く
自分で〝ハッちゃん〟名乗りだした。
噛むの回避するために、自分から〝ハッちゃん〟名乗り始めた。
「沈むわ! アンタに
「うむ! それもまた、さぷらいざっぷ!」
「黙れ!」
この艦、いまこの瞬間が一番『史上最大のピンチ』かもしれへん……。