第46話 朝――
ローゼマリアが目を覚ましたとき――
そこは精緻な組み木の天井と、しっかりとした四柱の天蓋付きベッドの中であった。
まだ部屋は薄暗い。カーテンの隙間から弱々しい朝陽が差し込んでいる。
「あ……わたくし……」
気だるげに髪をかき上げながら、ゆっくりと上体を起こす。
知らないうちに、薄手のシルクガウンを着せられていた。
身体はそれほど汚れてはいないようだが、ところどころべたつくような気がする。
肌が汗でしっとりと濡れていて、気持ちが悪かった。
それでも金髪はクルクルと縦ロールになっているから、こういうところも悪役令嬢補正なのだろうかなんて考えてしまう。
「……考えをまとめないと、事態がよくわからないわ」
思えば悪夢のような婚約パーティは一昨日のことだというのに、まるで遠い過去のことのように思えてしまう。
婚約者だったユージンに糾弾され、アリスと宰相たちに陥れられ。
無実の罪で牢獄に入れられ、モブ獄卒兵に襲われ。
オークション会場で売られそうになったところを、間一髪ジャファルに助けられた。
国外へと脱出するには、ジャファルと結婚することが一番早いと言う。
ローゼマリアが無事にアリスたちの魔の手から逃れられたら、次に両親を助けてくれると彼は約束してくれた。
それで初夜だと抱かれてしまったのだが――
広い寝室のどこにも、ジャファルの姿はなかった。
隣室へ続く扉から、わずかだが光が漏れる。
ローゼマリアはベッドから降りると、ラグの上に置かれていた花刺繍入りバブーシュに爪先を差し入れる。
下肢に力が入らないが、ゆっくりと窓枠に近づいてカーテンに手をかけた。
隙間から、そっと外を確認する。
早朝だというのに、中庭にいくつもの人影を目にして首を傾げてしまう。
(こんな時間に散歩? このホテル、やけに早起きする客が多いのね)
カーテンを開けようとしたら、隣室へと続く扉が突然開き、ジャファルが姿を現した。
「ローゼマリア。カーテンを開けてはいけない」
「ジャファルさま?」
「アリス一派の送り込んだ連中が、こちらを窺っている。不用意に姿を見せて飛び道具でも使われたら面倒だ。こちらにきなさい」
「は、はい」