5話 ゴブリーヌ
そんな時、病院ができた時みたいにボワンと煙が起こった。
ちょっと小さいから、ポワンかな。
ドロシーからのおまけの贈り物がゴブリンだったはず。
「ギャギャギャギャ」
「これが、ゴブリン？」
見た目は、子鬼。
肌の色は緑色ではなくて肌色。
ゴブリンて小人族なんだっけ？
とても小さい。
何歳くらいなんだろう。
4～5歳くらいかな……。
けれども、ゲームに登場するような怖い感じはしない。
RPGとか、アニメの世界だと化け物じみた顔をしていることが多いけど、可愛い顔をしている。
それでもモンスターと言われると、確かに小さな角らしいものが頭に生えている。
前の世界の知識によると、一般的にはゴブリンというのは醜い精霊を意味するらしい。
なのに、全然醜い感じがしない。
まるで、人間の子供みたい。
ひょっとして、ゴブリンじゃないんじゃないかな、と思ってしまう。
「これはゴブリーヌですね」
「ゴブリーヌ？」
「ゴブリンの変異種です。ゴブリンからは忌み嫌われる存在です」
嫌われてる……なんか可哀想だな。
「生まれるとすぐ殺されたり、捨てられたりします。あとは、短命で他のゴブリンより力が弱いとされています」
ゴブリンより弱いゴブリン？
短命って、程度にもよると思うのだけど、どのくらい生きるんだろうか。
「短命なんですか？」
「災厄を招く存在として、処刑されるみたいなことを聞いたことがあります」
処刑か……。
「なるほどね。より役に立たないモンスターを探し出して送ってくれたのですね」
「本当ですね。珍しい上に戦闘向きでないものを送り込むのは、なかなかです」
そんな嫌がらせ、手間が掛かるだけじゃないのかな。
「話を戻しますけど、普通のゴブリンってどのくらい生きるんですか」
「ああ、短命ってのが、気になるんですね」
遺伝子の中には突然死するものもある。
そういうのだったら困る。
「ええ、いくら手懐けられても、数日で死んでしまうのなら……」
「ゴブリンの寿命は、正直なところ良くわかっていません……」
分かってないのか。
「けれど、ゴブリンの中でゴブリーヌは7年以内に処分するように、という決まりがあるそうです」
短命というか、処分してるだけじゃないか。
「なるほど、7年くらい生きるのは確実なのですね」
それなら、透析ができなくても自分が生きている内は一緒に過ごせるかも知れない。
自分が透析できなかったら1年くらい生きてくれれば、俺には十分かもしれない。
ああ、俺って自己中だな。
ゴブリンをモノのように扱ってる。
ところで、このゴブリンはどれだけ強いのだろう。
ステータスを見てみる。
名前 ：なし
種族 ：ゴブリン
ジョブ：なし
レベル：1
HP ：100
MP ：20
力 ：8
敏捷 ：8
体力 ：8
知力 ：5
魔力 ：30
運 ：30
スキル：なし
武器 ：なし
防具 ：ボロ布
：なし
：なし
装飾 ：なし
「ステータスどうですか」
「えっと、力は8だから銅の剣は持てそうな気がするんですけど。知力5？」
「力が8あれば、平均的な成人男性より、ちょっと強いぐらいです」
俺って、それを聞くと成人男性より弱いよね。
「村人でも銅の剣を使っているので、銅の剣は使えると思います。でも、知力5だと指示が伝わらないかもしれないですね」
「ギャギャギャ」
なんだか、キョロキョロしている。
頭は良くないのか。
「あと、隷属の首輪もなーんにもついていないから、ただ送られてきただけかも」
隷属の……そんなのがあるのか。
つまり、今の状況はモンスターが現れた。戦う、逃げる、話す、コマンド? ということか。
「それで、これをどうしろと……」
戦う、はないな。
まず、こっちの命がない。
なぜなら、ゴブリンの方が強いから。
逃げる？
好戦的な感じはないし、恐怖感はない。
味方になってもらおうとしてるのに……ないな。
話す……話せるのか?
「スライム以外のモンスターに見つかったら死んじゃうかな。手なずけることができれば……」
お互いにとって良いと思う。
病院の卵の中は、きっと俺にもゴブリンにも安全に違いない。
なんせ治療のための建物なんでしょ？
「力はあるから味方にできれば、銅の剣でスライムは倒せそう……というところですよね」
自分達も困っている。
ゴブリンもこのまま放置したら、死んでしまう……かもしれない。
助け合えれば、WinWin。
良い関係。
「今のところ、小林さんに残された道は、ゴブリンにモンスターを倒させるか、生きるのを諦めるくらいしか残されてないですから、やれることはやってみてもいいかもしれないですね」
そうだ、モンスターを倒せないと話が先に進まない。
かといって、自分でスライムが倒せるかというと、疑問だ。
体力だって、力だって、HPでさえもスライムより低い。
……ちょっと待てよ、スライムでこんなに強ければ、スライム以外のモンスターが出たら、もっとまずいんじゃないか？
聞いてみよう。
「このあたりって、スライム以外にモンスターって居るんですか？」
「もうちょっと……3㎞くらいかな。この広場周辺から離れれば、蛙やら蛇やら色々出てきますよ」
「この周辺のみスライムだけですか？ 都合がいいけど不思議。何か仕掛けがあったりします？」
「ここの世界だと、転移者はみんなここに来ることになってるんですよ」
ここら辺がスタート地点なんだ。
「だから、ここに強いモンスターがいると、弱い転移者は最初から死んじゃうじゃないですか？」
確かに、RPGだと最初はスライムしかいないもんね。
「だから、一応3㎞位は結界を張ってあります。小林さんみたいに、ここまで何も与えられずに来る人は、なかなかいませんけどね」
ひとまず、安心……。
ゴブリンにしてみれば、この周辺にいる限りは脅威はないのだろうけど、間違って結界の外に出たら大変だ。
ここはやっぱり、しっかり仲良くならないと。
お互いに良くない。
こんなに可愛い子を放っておくことなんて、できるわけない。
そう、ゴブリンが可愛い。
是非、仲良くならないといけない。
命に代えても。
