4話 俺のライバルはスライムだ。
気を取り直していこう。
「えっと、モンスターを倒して病院に吸収させるんですよね」
「はい、スライムを一定数倒してください。スライムを吸収させることで、病院の卵が起動します」
とりあえず、この病院の周りから離れないようにグルっと周りを歩いてみた。
そしたら、スライムが木の根元にいるのを発見した。
まだ、だいぶ距離がある。
スライムはそんなに感覚が鋭いわけではないらしく、気付いている様子はない。
丸くって、薄青色の透明で、中心に大きな赤いものが見える。
たぶん核。
モノは試しでステータス鑑定をしてみよう。
種族 :スライム
ジョブ:なし
レベル:1
HP :50
MP :0
力 :3
敏捷 :1
体力 :3
知力 :1
魔力 :5
運 :1
自分の力よりもスライムの方が高いという事実……。
そして、HPが高い。
「ダレンさん、HPが高いんですけど……大丈夫ですかね」
「スライムはHPを無視して大丈夫ですよ。攻撃は遠くから一気に近寄って剣で刺せば一発です」
「あの、そういえば、武器ないです……」
ダレンさんに向かって手を差し出す。
ちょ~だい。
「確かに……。使いの者の権限でどこまで、やっていいんだっけな……」
ダレンさんが呟きながら冊子をとりだす。
手を冊子にかざすと薄く光り、勝手に冊子がパラパラと動き始め……パタンと閉じる。
何だか、読んでなさそう。
「えっと……世界管理者ではないので、権限があんまりないのですけど。銅の剣に限り与えていいという決まりがあるみたいです」
何で、銅の剣?
どうでもいい件だから、銅の剣かな……洒落?
ダレンさんが銅の剣を差し出す。
おお、カッコいい~。
俺の中でワクワクした感情が湧きあがる。
これが、中二ゴコロというやつなのかもしれない。
幼い頃、憧れた剣という存在。
こっちの世界では、そうでもないのかもしれないけれど、剣は男の憧れ。
勇者だって、特撮だって、どんなアニメの主人公だって……みんな剣を使う。
そして、俺も……。
遂に、異世界勇者直樹の誕生だ。
長々と妄想を繰り返した後に、恐る恐る触れてみる。
デザインが素朴でかっこいい……。
よし、やっちゃるか、という感情が起こってきた。
俺だって、異世界に来たんだ。
カッコイイことしたい。
銅の剣の柄を一気に握る。
ダレンさんが手を離し、完璧にこっちへ受け渡された。
「うっ……」
なんてことだろう。
渡された瞬間から現実が裏切り始めた。
細い腕にかかる凄まじい重力。
銅の剣は地面に吸い寄せられていく。
柄の部分だけをかろうじて持っているが、刀身は地面に着いている。
そして、そこから動けない。
「ダレンさん……剣が持ち上がらないです」
「……ああ……、病人ですものね。一瞬何を言ってるのかわかりませんでした」
ダレンさんはため息をついている。
そして、憐みの目を向ける。
やめてくれ、……そんな目で見ないで。
ダレンさん、俺のステータスの数値……伝えてませんでしたね。
予想外でしたか……?
そうですよね、スライムよりステータスが低いなんて、きっと、予想外ですよね。
「やっぱ、生きられないんですかね……俺」
戦えもしないなんて、俺って駄目駄目だ~。
泣きたい。
泣きたいけど、我慢しよう。
きっと泣いたら、涙が止まらなくなるから。
戦えなかったけれど、今後のためにダレンさんはスライムについて教えてくれた。
説明によると、スライムは近づくと体の一部を弾丸のように伸ばして、攻撃してくるらしい。
食べるものは雑食で、身体に取り込めるものは消化して栄養分にするということだ。
スライムといえど、自分には十分脅威。
複数匹集まると、成人男性でも負けるらしい。
その内、スライムに勝てるといいな。
スライム。
見てろよ。
俺のライバルはスライムだ。