3話 良くわからないけど、腹が立った。
「う~ん……ところで、モンスターって、どのくらい強いんですか?」
モンスターの大体の強さが気になった俺。
「ピンからキリまでいますよ。スライムからドラゴン、邪神まで。自分のステータスと相談して戦わなくちゃですね」
弱いのはスライムで、強いのはドラゴン。
さらに強い存在もいると……ぼんやりとした答えが返ってきた。
「ステータス? なんだかゲームっぽいですね。俺のも見られたりしますか?」
「スキルが使えれば、見られるのですけど……。ステータス鑑定のスキルが使える人って、あまりいないんですよ」
ステータス鑑定はあるが、皆が使えるわけではないらしい。
「女神様は見えてたみたいですね」
「……そういえば、管理者になると使えるのですかね」
異世界に来たのに、異世界ライフの醍醐味のステータスが見られないなんてもったいない。
約2週間の命かもしれないから、死ぬ前の餞別に見えないだろうか。
ダレンさんをステータス見えろ~、見えろ~って念じながら、眺めてみる。
見えないか……。
ん……なんか、ぐにゃぐにゃしたものが見える気がする。
ぐにゃぐにゃが文字になって……。
名前 :ダレン・カレン
種族 :神族
ジョブ:管理者の使い
レベル:不明
HP :300
MP :200
力 :10
敏捷 :10
体力 :10
知力 :300
魔力 :1000
運 :10
スキル:不明
称号 :不明
武器 :神界の辞典
防具 :神界の衣
:神界のサンダル
:神界の下着(即死効果無効)
装飾 :魔力上昇の腕輪
下界補正のため、HP、MP,力、敏捷、体力は-1000
あ、見れた。
けれど、勝手に見られるのは嫌だろうな。
見たことは内緒にしておこう。
自分を見るにはどうするんだろう。
念じる? 違うな……。
困った時には……じっと手を見る、と相場が決まっている。
働いても働いても、生活が楽にならなかったんだっけ?
一握の……すな?
じっと手の平を、眺めてみる。
名前 :小林直樹
種族 :人間
ジョブ:なし
レベル:1
HP :20
MP :10
力 :2
敏捷 :2
体力 :2
知力 :30
魔力 :10(腎臓内に10万)
運 :20
(透析充足度不足)
スキル:ステータス鑑定
称号 :魅惑の夏エネルギーを宿し者
武器 :なし
防具 :患者衣
:トランクス
:なし
装飾 :なし
ダレンさんの下界補正のHP、MP,力、敏捷、体力は-1000ってのもやばいけれど。
自分のステータスもやばい。
こんなステータスで大丈夫なんだろうか。
それに、透析終わったばかりなのに、透析不足か。
ダレンさんにできたことを、教えておこう。
「ダレンさん。どうやら、俺、ステータス鑑定のスキルあるみたいです」
「え? なんで?」
ダレンさんは俺がステータス鑑定出来た事に驚いている。
「なんでって言われても。やっぱ、病気になった原因のエネルギーのせいですかね。魅惑の夏エネルギーとか書いてありますし」
「何ですか? そのエネルギー。鑑定のスキルが使えるなんて、羨ましい」
俺のステータス鑑定スキル。
これは確かに楽しい能力だ、ワクワクする。
それにしても、自分のステータスはどうなんだろうか。
「あの……ステータスが一桁の俺でも、モンスター倒せるんですかね」
「不安なんですね。この世界も小林さんの世界も、冒険者でない限りそんなに変わらないですよ」
そうなのか。
俺は村人くらいは強いんだろうか。
「わかりやすく言うと、村人1人でギリギリゴブリンを1匹倒せるくらいです。まあ、ゴブリンは群れていることが多いので、1対1で戦うことは少ないですけど」
確かにわかりやすい。
「成人男性なら、モンスターを倒せるんですね。最低でもゴブリンは倒せるのか」
「まあ、平均的に言ってですけど。今回は初めに必要なのはスライムだから、大丈夫ですって」
スライムはゴブリンより弱いみたいだ。
そして、俺のステータスが村人並みならスライムは楽勝なのか。
「そうですか。少し安心しました」
「それと、戦力としてワタクシを期待しないでくださいね。今はいろいろと制限がかかってまして」
ステータス見たから、わかる。
俺より高いけれど、それでも弱いに違いない。
「下界のものにあまり直接的なことはできないです。だから、モンスターを直接退治できません」
そういう意味か、弱いからではなく決まりのせいらしい。
神様の決まりって、めんどくさいな。
「サポートぐらいはできますが、それにしたって回復とか、ある程度の情報提供とか……まあ、さじ加減にもよりますけどね」
「ありがとうございます。いろいろと決まりがあるのに、無理をしてくださって感謝です」
下界にいることによる制限は、おそらく神でも命を奪われかねない危険な制限だ。
なのに、危険を冒してまで一緒にいてくれるなんて、いい人だ。
ハゲだけど。
「あの~前の世界から、荷物持ってきてるのですけど、やっぱ持って歩かないと危ないですよね」
転移してくるのに唯一持ってきた荷物。
セカンドバッグに床頭台の中のものを詰め込んできたものだ。
中身は着替えだけど、戦うのに持って歩くのは邪魔っぽい。
「そうですね。これには魔法バッグをあげますね。本当はダメなんでしょうけど」
ダレンさんが茶色い革のバッグを差し出してきた
「これから病院の卵に魔物の死体を運ばなくてはいけないので、内緒であげます」
「え……、いいんですか。それって、かなり大サービスなんじゃ……」
普通に考えれば、一介の人間が持っていいようなものじゃないだろう。
これは、何だかんだ言っても便利すぎる。
「大丈夫です。昨日、神界のコインランドリーへ洗濯に行ったら、洗濯槽の中に入っていたんです」
コインランドリー? 神界にもあるんだ。
「前の人が忘れていったのだと思います。防犯カメラにバレないように、そのまま一緒に洗濯して、何喰わぬ顔で自分の洗濯物と一緒に持ってきました」
「それ、窃盗ですよ」
「知ってますよ。だから、ワタクシと小林さんの間のヒ・ミ・ツ。フフ」
……何だか、気持ち悪くて鳥肌が立ってしまった。
「ちょっと、気持ち悪い、それ……。でも、ありがとうございます」
「フフ、下級でもワタクシは神ですから、自分の中の正義には正直に生きようと思います」
窃盗しておいて、正義も何もないじゃん、とか思いながらも感謝。
気のせいかカッコイイような気もする。
「なんか、カッコいいこといいますね」
「惚れました?」
「すいません、ハゲとヒゲはちょっと」
「そっち?」
「え……いや、男もちょっと」
「そうですか~」
「ダレンさん、ひょっとして……」
「ワタクシも男はちょっと……」
「だったら、訊かないでください」
良くわからないけど、腹が立った。