第39話 荷物みたいにベッドへと運ばれましたっ!
「ばかな。ここから城下町のはずれまで、馬車でどれだけかかると思っている。それに宿の位置もわからないではないか」
一ルーギルも持っていない状態で、馬車を拾えるわけがない。
宿を探すことだって容易なことではないだろう。そんなことは言われなくともわかっている。
「だって……だって……なにかをしなければ、心が壊れてしまいそうだもの……」
小さく呟き、そのまま歩き出そうとしたら――
パシリと大きな手で、細い腕を掴まれた。
「駄目だ。このフロアから出てはいけない」
「離してください。わたくしは……」
その手を振り払おうとしたら、それ以上に強い力を込められる。
「いっ……」
骨が折れそうなほどの力強さに、ローゼマリアの眉間に皺が寄った。
ジャファルが手を離した拍子に、そのままエレベーターに向かって走ろうとしたが、それは適わなかった。
「きゃぁっ……?!」
細腰を両手で掴まれ、ふわりと持ち上げられる。
「頑固なひとだ」
そのまま丸太を担ぐように、彼の右肩に乗せられる。オークション会場から逃げ出したときと同じ体勢だ。
「ま、また、こんな荷物みたいにわたくしを扱って……なんてひとなの! 下ろして、下ろしてくださいませ!」
ローゼマリアの訴えを無視して、ジャファルが隣の扉に向かって話しかけた。
「あとは頼む。私はローゼマリアを沈静化させる」
「はい。ジャファルさま」
扉の隙間から男の声がしたが、ローゼマリアからは姿までは見えなかった。
ジャファルに抱えられたまま、元の部屋に戻される。
「下ろして! この嘘つき! あなたのことを信じるんじゃなかったわ!」
広くて筋肉質な背中を、小さな拳でポカポカと叩く。
彼はまったく動じることも痛がることもなく、平然とした足取りでベッドルームへと向かった。
「ひゃっ……!」
そのままベッドに下ろされる。けして荒っぽくはないが、ローゼマリアには文句を言えるほどじゅうぶん手荒いといえた。
「ら、乱暴ですわ!」
慌てて上体を起こすと、ジャファルが片足をベッドに乗せ、ローゼマリアの目の前に顔を寄せてきた。
「乱暴なのは、あなたの考えかただ。歩いて行ける場所ではないと言っているだろう。それにあなたは顔が知られている。のうのうとそこあたりを歩いただけでも、また妙な連中に捕まるのだぞ」
「……でも、でも…」
ジャファルが呆れた表情で、ローゼマリアを覗き込んでくる。
「冷静になれ。自分の手に負える事態か?」