46.少し暴言が過ぎたようです
ふるふると小刻みに震えているのに逢坂が何食わぬ顔をするものだから、さすがに困り果ててしまう。
「いやらしい男性用下着を見せつけてくるなんて、セ、セクハラです!」
「下着の会社で下着の話をしてセクハラになるか。自意識過剰だ。別におれの下着姿を見せたわけじゃあるまいし」
逢坂の下着姿……と心の中で反芻しただけで、無意識に妙な妄想をしてしまう。
逢坂は背も高く、筋肉質ないい身体をしている。
肩も広いし、手足も長い。
腰のラインもすっきりしているから、内臓脂肪なんてほとんどないに違いない。
服のセンスもよく、下着の会社でCEOをしている彼の選ぶ男性用下着がどんなものか、急に気になってしまった。
(ぴったりボクサーとか……それ以上小さい下着? 逢坂社長がどんな下着を穿くのか気になっちゃう。あんなエッチなレザービキニじゃないわよね? でも、ちょっと見てみたいような……)
すっかり脳内が、ちょい悪オヤジのセクシーな下着姿で制されてしまった。狼狽えるちひろの顔を、逢坂が訝し気に覗き込む。
「顔が真っ赤だな。熱でもあるのか?」
逢坂の大きくて厚みのある手が伸びて、ちひろの額を覆う。
ちひろの好きな香りがふわりと漂って、顔から火が噴出しそうなくらいもっと赤く染まってしまった。
「逢坂社長。彼女は異性に触れられるのに慣れていないんです。またセクハラとか大仰に騒がれますよ」
横から高木が、棘のある口調でそう声をかけてきた。
「え、そんなことは……」
ギロリと彼女に睨まれ、ちひろは何も言えなくなってしまう。
逢坂の優しい手が離れていくと、途端になんだか寒くなったような気がする。
「無理するなよ」
彼はそう言うと、デスクに戻ってしまった。
寂しい心地のまま椅子に座ろうとしたら、高木が耳元でそっと囁いた。
「あなたね、いくらなんでも社会常識なさすぎでしょう。逢坂社長に向かってセクハラですって? 何を勘違いしているの。フィッティングは仕事よ? あなたは業務拒否しただけでなく、逢坂社長を誹謗中傷したことになるの。わかっている?」
業務拒否に、誹謗中傷。
不穏な言葉の羅列に、ちひろのほうが驚いてしまう。
「本気で思ったわけでは……」
高木は細い眉をギリッと歪ませ、忌々しいという顔でちひろを睨みつける。
「あなたの気持ちが本気か冗談かなんて、一切関係ないわ。どれほどユルい中小企業で雑用やっていたのか知らないけど、もしここがアメリカならセクハラの一言で裁判に発展することだってあるんだから。今後は気をつけることね」