第35話 ジャファルを探して……
「……そなたが先だな」
彼が気まずい表情をしたので、ローゼマリアは目線を下げて自分の着衣を確認する。
オークションで無理矢理着せられたドレスの胸もとが露わに開き、あと少したるんでしまったら乳首が見えてしまいそうになっていた。
「きゃ……」
慌てて両手で胸を隠すと、ジャファルが背を向けてしまった。
「少々待っていてくれ」
ぶっきらぼうな口調でそう言い捨てると、早足で部屋から出て行ってしまう。
バタンと扉が閉まると、ローゼマリアは嘆息した。
ひとりになると、とたんに心寂しい気持ちになってしまう。
以前――覚醒前ならば、この部屋のように煌びやかで豪勢な部屋で、ひとりソファに座っていてもなにも思わなかったのに。
しかし今は、見える世界がこれまでとは違っていた。
(どうすればいいのかしら……これから……)
心はこれからどうなるのかという不安に苛まれているのに、身体と精神は疲労しきっている。
肘置きにもたれかかると、急に睡魔が襲ってきた。
ずるずると身体が横に移動し、肘置きにもたれかかってしまう。
(ダメよ……寝ちゃ……もっと彼に聞きたいことがあるもの……)
しかしローゼマリアの意識はストンと落ちてしまい、そのまま寝入ってしまった。
§§§
ローゼマリアの目が覚めたとき――
窓からは夕暮れと思わしきオレンジ色の光が差し込み、少し肌寒かった。
起き上がると、スルリと布が落ち、足もとにかかる。
寝入ってしまったローゼマリアに、ジャファルがシーツをかけてくれたらしい。
一瞬ここがどこで、自分がなにものかを見失ってしまったローゼマリアは、ぼやっとした意識のまま部屋の中を見渡した。
薄暗い部屋は、まるで異世界のようで、現実味もなにもない。
(いいえ。今となってはこっちが現実。わたくしは、乙女ゲーが大好きだったあの頃の自分じゃない……)
少し眠ったら、意識がすっきりしてきた。
ジャファルには、いろいろと聞きたいことがある。
ローゼマリアはゆっくりと立ち上がり、彼の姿を探して隣の部屋に行ってみる。
そこは広々とした寝室で、きれいにベッドメイクされた天蓋付きベッドには誰もいなかった。
「部屋にはおられないのかしら」
乱れた髪をかき上げようとしたら、ヴェールが爪に引っかかって邪魔をした。
頭部につけられているピンを、一本ずつ取り外してみる。
ヴェールを折りたたんでピンと一緒にローテーブルに置くと、再びジャファルを探した。