第34話 最高級ホテルのインペリアルルームで、やっと一息……
しかし本人は機嫌のよさそうな顔をしているから、やはり単に触りたかっただけかもしれない。
(もうっ……ジャファルさまったら……)
一定の距離を保つと、彼はこれ以上不用意に触れてはこなかった。
エレベーターが最上階に止まると、グインと大きな音がして扉が開き、ジャファルとともに降りる。
そのまま並んで廊下を歩き、最奥の部屋の前にくると、彼がキーを取り出した。
「入りなさい」
開かれたドアの中に入る。そこは豪奢な家具が配置されたインペリアルルームだ。
「好きな場所で休んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
なぜ選び抜かれたVIPか国賓御用達、最高級ホテルのインペリアルルームにジャファルが泊まれるのだろうとか。
なせ人身売買オークションで大枚はたくことができるのだろうとか。
なぜ、なんの縁もないローゼマリアを助けたのだろうとか――
考えなければならないことが山ほどあるとわかっているが、疲労がピークを迎えたようで、ソファを目にしたとたん、すぐに腰掛けた。
「なにか飲むか?」
ジャファルがバーカウンターに立つと、ワインボトルを手にした。
コルクを器用にポンッと取り外すと、クリスタルのワイングラスにコポコポコポと、いい音を鳴らして液体を注ぐ。
「あなたが……自ら用意してくださるの?」
彼の正体を確認してはいないが、なんとなくかしずかれるのが当然という雰囲気がする。
飲みものの用意など自らしなさそうに見えたので、そのように質問してみたが、ジャファルは艶やかな笑いを返してきた。
「ああ。人払いをしたのでね」
ワイングラスを渡され、ルビー色の液体をひとくち含む。
爽やかなブドウの味が口腔内に広がり、鼻腔には芳醇な香りが抜けていく。
上等なワインは、ローゼマリアの疲れた心と身体にすぐさま染みわたっていった。
喉がカラカラだったせいか、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干してしまう。
「ふぅ……」
一息つくと酔いでクラクラしてしまったローゼマリアは、ソファの背にゆったりともたれかかった。
ジャファルが心配げな顔で、ローゼマリアを見下ろしてくる。
「私は隣の部屋で着替えてくる。そなたの着替えも、あとで用意させよう」
「は、はい。ありがとうございます。助かりますわ」
顔を上げると、ジャファルの視線と交錯する。だがすぐに、顔を背けられてしまう。