第30話 いつ、どこで、あなたと出会ったのでしょう? 10年前……?
(せめて、彼とどこでお会いして、どんな話をしたのかくらい知っておかないと)
ローゼマリアはそれを確認したくて、恐る恐るジャファルの名を呼んでみる。
「あ、あの……ジャファルさま。教えていただきたいことがあるのです」
「なんだ?」
「わたくしたち、どこでお会いしたのでしょうか?」
そう問うと、彼は影をふっと落とした物憂げな表情をし、なにが言いたげにローゼマリアを見つめてくる。
まるでジャファルとは、かつてとても懇意にしており、それをローゼマリアが忘れてしまったとでもいうような顔だ。
(やはり、わたくしたちは出会っているのね。でも……どこで? まったく思い出せないわ)
「あの……?」
問いかけると彼の表情がすぐに猛々しいものに変わり、先ほどの沈痛さはどこかへ消えてしまった。
「いや……私の勘違いだったようだ」
「え? でも確か十年前とおっしゃって……」
「そんなことを言ったか?」
そう返されローゼマリアは、煙に巻かれたような気分になってしまう。
(ええ……? 記憶違いなんてことはないと思うけれど……)
困惑するローゼマリアの気をそらすように、彼は素知らぬ顔で説明を始めた。
「このまま、私が宿泊しているホテルへ向かう。そこで一泊してからこの国を出る」
なにかがしっくりとこないままだが、どこがどうとははっきりと言えなかった。
それよりもローゼマリアには、最重要とも言うべき気がかりなことがある。
「助けてくださり誠に感謝しております。しかし、わたくしは両親がどうなったか調べたいのです。ご無礼を承知で申し上げますが、屋敷に向かっていただけませんか?」
「あなたの屋敷に?」
「はい。王都の中心にある……」
ジャファルはローゼマリアの言葉を途中で遮った。
「駄目だ。寄り道などしたら、あなたの身に危険が及ぶ」
「……ではせめて、近くまで行けませんか? お父さまとお母さまがどうなったか、手がかりだけでも欲しいのです」
それもジャファルは左右に首を振って否定した。
「のこのこと戻ってみろ、すぐさま捕えられて、再び牢獄行きになるぞ」
ローゼマリアの身体がブルリと縮み上がった。
(あ、あんなおぞましい連中に襲われるのは二度と嫌……でも、お父さまとお母さまのことも心配だし……ああ、どうすればいいの?)
「し、しかし……わたくしは両親に会わねばなりません。とても心配なのです……」
「あなたの両親は行方不明だ。追っ手から逃れるため、国外へ脱出しようと動いているのではないだろうか」
「えっ……」
(お父さま……お母さまが……わたくしを残して……? 嘘よ、そんなの……)