第20話 悪名高い公爵に落札された? 冗談じゃないわ!
アンノウンが叫ぶと、客席から次々に声が飛んでくる。
「二千万ルーギル!」
「三千!」
(ええ? これって、もしかして……)
「一億ルーギル出そう!」
アンノウンが嬉しそうに、拳を突き上げた。
「一億! 一億が出ましたよ!」
(一億ルーギル……地方に別荘を買えるくらいの価格だわ。まさかと思うけど、その金額でわたくしを……)
慄然とするローゼマリアに、アンノウンが楽しそうに話しかけてくる。
「あちらの紳士がお嬢さんを一億ルーギルで買ってくれましたよ。よかったですね」
(人身売買のオークションなのね! やはりあの馬車は、ジャファルさまの手配したものではなかった?)
「必ず助ける」と明言したジャファルが姿を見せない以上、ローゼマリアが騙されたか、もしくはジャファルに見捨てられたか、そのどちらかであると推測する。
どちらにしても、最悪な事態であることに変わりはない。
「なにが、よかったよ! いいわけないじゃない! 勝手にひとを売買しないで!」
大声で言い返すが、アンノウンは「おや?」というとぼけた顔をした。
仮面のような顔のくせに妙な表情を浮かべるから、よけいに腹が立ってくる。
「ミストリア王国は人身取引を認めていないのよ。これは犯罪だわ!」
アンノウンは表情をまったく変えず、ケケケ……と気味の悪い笑い声を漏らした。
「罪を犯したのはお嬢さんでしょう? アリスさまへの暴挙を忘れたのですか?」
「わたくしがアリスになにをしたというの? 暴挙ですって? 証拠のひとつも提示できないくせに!」
気分を害したのか、アンノウンの声が低くなる。
「アリスさまを呼び捨てにすることが不敬罪ですね。未来の王太子妃ですよ?」
なにが未来の王太子妃だ。話が通じないにもほどがある。
それに罪を犯したから、人身売買にかける? いくらなんでも横暴である。ふざけないでほしい。
突然アンノウンが、勘に障るような甲高い声を出した。
「おっと。一億ルーギルを出そうとしているのはアウゼン公爵ではないですか」
こんな非人道的な人身売買に参加するとは、どこの公爵かとアンノウンが手のひらを指しだした方向に視線を向ける。
観客席の最前列に、小山のような男が座っていた。
飽食と怠惰を体現したようなその男は、いやらしい目つきでニヤニヤとローゼマリアを凝視してくる。
「あ、あの男は、確か、悪名高い……」