第19話 美女トラフィッキング会場って……?
そして抵抗する間もなく、廊下に放り出される。
先ほどの黒装束の男たちに、ふたたび腕を引っ張られ、無理やり廊下を歩かされた。
「離しなさい! 説明を求めます! わたくしをどうするつもりなの?!」
当然のように返事がないまま、舞台そでに到着してしまう。
すると舞台中央に向かって、強く背を突き飛ばされてしまった。
「きゃあっ……!」
舞台の上に倒れ込み、床に手をついた瞬間。
頭上で「バンッ」と大きな音がした。
「まぶしいっ……」
たくさんのスポットライトが一斉に降り注ぎ、熱いばかりの光がローゼマリアを取り巻く。
恐る恐る顔を上げると――
(ええっ?!)
ローゼマリアは、舞台から観客席を見渡した。
大劇場の高い天井には、たくさんのシャンデリアがぶら下がっている。
客席と舞台の間には、オーケストラ・ピットと呼称される空間を設けているが、今はなんの楽器も置かれていない。
かわりに客席は、すべてひとで埋まっていた。
(なぜ早朝の大劇場に、こんな大勢のひとがいるの?!)
両サイドのボックス席、そして奥のバルコニー席もひとで埋め尽くされている。
まるで見世物だ。いや、見世物ならまだいい。
ローゼマリアは、まるで踊り子か娼婦のような格好をさせられている。
こんな格好で万人の前に立たされるなんて、なんという辱めだろうか。
(どういうことなの、これは? ジャファルさまはどこなの!)
観客席から、いっせいに歓声や拍手が沸き起こる。
「レディースアンドジェントルメン!」
突然の大声に、ローゼマリアはビクリと身を震わせる。
その怯えた様子が面白かったのか、観客席から嘲笑がいっせいに沸き上がった。
(だ、誰?)
蝶ネクタイと黒いスーツ姿の、のっぺりした顔の男性が舞台に現われ、声を高らかに張り上げた。
手に持つシルクハットを、くるくると回し、ストンと頭に被る。
「美女トラフィッキング会場へようこそ! わたくし司会を務めるアンノウンでございます!」
(はい? トラフィッキング?! どういう意味?)
ローゼマリアが唖然としていると、アンノウンと名乗った男がローゼマリアを一瞥し、ニヤリとした。
仮面が歪んだような笑みに、ローゼマリアの背筋がゾッとしてしまう。
アンノウンは再び観客席へ視線を移すと、慇懃に一礼する。
「急に開催時刻が変更になったにも関わらず、かつ取引商品が一名という状況下、こんなにも大勢のバイヤー、そして見学者にお越しいただき、まことに感謝いたします」
ローゼマリアは、固まったまま立ち上がれない。
トラフィッキングの意味もわからず、ただ怯えた顔で周囲を見渡すことしかできなかった。
「では一千万ルーギルから始めます!」