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安泰のときは訪れない

 電流ステージをクリアすると、宿の前に飛ばされた。

 残り日数からして、電流ゾーンは序盤だと思われる。今後もこのようなコースが続くと思うだけで辟易する。

 電流以外では、マグマ、水、ウイルスなどが候補にあがる。クスリの思いついた三つの中から、どのようなコースを用意しているのだろうか。

 命がけの冒険を終えた直後とあって、精神力を大いに奪われていた。数日間は休養に充てたほうがよさそうだ。

 アイテム補充に重点を置いたものの、ボスと戦闘しているうちにほとんどが尽きてしまった。今回もアイテムを中心にゲットする必要がある。

 宿屋では「ドラッグ」の上位に当たる「ハイドラッグ」を販売。効果はHPを1000回復させるというものだった。「ハイ」とつけられているだけあって、回復量は増えていた。

 クスリは「ハイドラッグ」を40個入手することにした。これだけの数を持てば、さすがにいけるのではなかろうか。

 武器、防具を確認する。「たつじんのけん」、「たつじんのぼうぐ」が置かれていた。戦力強化になるのではないかと思い、二つを調達することにした。

「たつじんのけん」を入手した直後だった。どういうわけか、「たつじんのぼうぐ」はリストから消えてしまった。クスリは必死に探そうとするも、発見することはできなかった。片方しか入手できない仕組みだったようだ。

 武器と防具のどちらかしか入手できないのであれば、防具の方がよかったのかな。RPGではHPが尽きない限り、やり直すことができる。

 クスリは「たつじんのけん」を装備する。名前こそよかったものの、大して攻撃力はあがらなかった。

 アクセサリーについては前回と変わっていなかった。電流ゾーンで苦しんだ教訓から、「まほうぼうぎょリング」を一つ購入することにした。

 前回は置いていなかった、「とびどうぐ」を発見。「しゅりけん」、「ダーツ」などを置いてあった。今後に役立つのではないかと思い、それぞれ50個ずつ補充することにした。

 前回の宿屋では購入量に制限を設けられていたものの、今回は無制限なのかな。「ハイドラッグ」、「しゅりけん」、「ダーツ」を持てる限り入手することにした。

 アイテムを大量に持った直後だった。総重量が許容量を超えたからか、移動速度は遅くなっていた。

 体力メーターも少しずつ下がっている。身体に負荷を与えると、HPを少しずつ削られていくようだ。

 HPを「ハイドラッグ」で回復させてから、宿屋の店で「ダーツ」を50個ほど手放すことにした。

 身体は軽くなったのか、スムーズに移動できるようになり、HPも減少しなくなっていた。

 おなかをすかしたときのための「非常用の肉」を忘れずに補充しよう。吐き出しそうなまずさではあるものの、冒険中に食べなくてはならない。

 アイテムの準備を終えると、寝室に向かった。あったかい布団で睡眠を取れるのは非常にありがたい。

 寝室には生前にクリアできなかったゲームを置いてあった。ボスの手前までプレイしていた矢先に、あの世に逝ってしまった。

 ゲームをクリアしたいという衝動に駆られたので、ちょっとだけ遊んでみようかなと思った。未練をなくすことで、メンタルに良い効果をもたらすのではなかろうか。

 ゲームに熱中していると、メイドがやってきた。女性という先入観を持って、目を近づけているうちに、男性であることに気づいた。胸の部分にはパットを入れているようだ。

 2000年代の日本においては、男がスカートを履き、化粧をするという文化は受け入れられていない。そのため、女装メイクをしたメイドは非常に気味悪さだけが目立った。

 目の保養にならないので、所持している剣で倒そうかなと思った。男に癒されても、テンションは下がるだけだ。

 男は懐に手を忍ばせている。主人公を暗殺するのではないかと思い、クスリは先に攻撃してしまおうかなと思った。誰かに遺体を発見されたとしても、正当防衛を主張すればいい。

 クスリが剣を振り下ろすと、メイドの格好をした男は、血しぶきを上げて絶命することとなった。

 前の宿においては画面から姿を消していたのに、今回は遺体のまま消えることはなかった。男はどうやら敵ではないようだ。

 RPGでは敵でなかったとしても、闇に葬れる調整にしてあるのか。剣を振り下ろしたら、あとは自己責任というのは厳しすぎやしないか。

 メイドの男をどこに隠そうかなと思っていると、女性従業員が入室してきた。

「××さん。私のメイド服を勝手に着ないでください」

 女性の衣服を勝手に盗むなんて許しがたい男だ。生命を奪われたとしても文句をいう権利はない。

 女性従業員は真っ赤に染まった室内を目の当たりにすると、顔は完全に蒼ざめていた。数秒後に同僚の遺体を発見すると、大きな叫び声をあげていた。

「きゃああああ~」

 メイドが大声を上げると、管理人らしき人間がこちらにかけつけてきた。

 クスリの所持している剣には男の血がべったりとついていた。どうやっても言い逃れのできない状況が作り上げられていた。

 マスターについてきた男は槍を三本所持している。クスリは三人と命を懸けた戦いをするのをすぐに察知した。

「不届き物だ。とっとと始末しろ」

 クスリは窓から脱出を図ろうとするも、どういうわけか戦闘画面に切り替わることとなった。


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