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ムツキにゃし! その1

 僕が元いた世界には『寝る子は育つ』ってことわざがありました。
 
 え? なんでこんな言葉をいきなり言い出したのかですって?
 そうですね、順を追ってお話しましょうか。
 
 先日、我が家に双子の女の子が産まれました。
 姉のアルトと妹のムツキです。
 2人がまだスアのお腹の中にいたころなんですが、スアが厄災魔獣の肉をすり下ろして作成した粉薬を服用していたんですよね。
 この薬ってば、神界でも貴重とされるほど効果てきめんな薬らしかったんですけど、
「……きっと丈夫な赤ちゃんが生まれる、よ」
 と、スアが言ってたわけでして……

 で、スアの思惑通り、双子の赤ちゃんは元気に産まれて来ました。
 で、姉のアルトは産まれながらにしてすでに自我を持っていて思念波での会話や、転移、魔法を駆使しての空中浮遊まで出来るスーパーベビーだったんです。
 ところが、妹のムツキなんですが……こちらは何か特別な能力を有しているのかどうかさっぱり判断出来ません。
 何しろ、1日中寝ているんです。
 ご飯の時にはうっすら起きているような気もするんですけど、どっちかっていうと口にほ乳瓶をあてがわれたもんだから口が勝手に動いている……そんな感じでした。
 で、まぁ、そんな日々が続いていたんです。

 で、今朝のことです。
 僕はいつものように夜明前に目を覚ましました。
 冬ですので、夜明けが若干遅くなっていますので部屋の中はまだ暗いです。
 僕が寝ているベッドには、僕の横からパラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの順番で子供達が寝ていまして、その向こうにスアが寝ています。
 で、僕はそんな皆が目を覚まさないように気をつけながら起きだして、ベッドを降りたんですよね。
 すると、そんな僕の背中に誰かが抱きついて来ました。
 このサイズからいくと、パラナミオでしょう、うん。
「ありゃ、パラナミオ起こしちゃったかい?」
 僕はそう言いながら後方へ首を巡らせました。

 すると、パラナミオはベッドの上で寝ています。

「……あれ?」
 僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまいました。
 じゃあ、今僕に抱きついているのは……スア?
 そう思ってベッドの中をよく見てみると、スアも横になったまま寝息をたてています。
 で、ベッドの中をよく見ていると……その中に一箇所、不自然な空間が出来ているのに気がつきました。
 ちょうどアルトとスアの間……そこに寝ていたのは……
「……まさか、ムツキ?」
「にゃし!」
「に、にゃし!?」
 僕が声をかけると、その人影はそう言って顔を上げました。
 うん……その顔には確かにムツキ……の、印象があります。

 ですが

 僕に抱きついている女の子は、どう見てもパラナミオと同じくらいの大きさなんですよ。
 で、その女の子は僕に抱きついたままニコニコ笑い続けています。
「……あの、ホントにムツキなのかい?」
「そうだよパパ。ムツキ、やっと大きくなれたの」
 その女の子~ムツキはそう言って笑いました。

 ……で

 僕はすぐにスアを起こしたのですが、スアが起きるとムツキは今度はスアに抱きついていきました。
「ママ! ムツキなの」
 ムツキは、そう言いながらスアに抱きついた……の、ですが、ここで力尽きたらしくそのまま再び寝息を立て始めました。
 すると……なんということでしょう……
 それまで少女の大きさだったムツキの体がみるみる縮んでいきまして、元の赤ん坊の姿に戻ってしまったんです。
 僕は、この事態を把握することが出来ず、ただただ唖然としていました。
 そんな中でも、スアは冷静です。
 再び眠り始めたムツキの頭に手をあてていきました。
 その手の先が光り輝いています。
 きっと、ムツキの体に何が起きたのか魔法で調べてくれているのでしょう。
 僕は、さすがスア、頼もしいな……と思いながらその光景を見つめていたのですが……そんな僕の前のスア

 カクンと首を前に倒して絶賛二度寝の開始してしまったではありませんか!?
 気がつけば、手の先の光も消えています。
 ちょ、ちょっ、待って!?

◇◇

 といわけで、ムツキもスアも熟睡モードに入ってしまったため、僕はこの事態が気にはなっていたのですが、とにもかくにも厨房へと移動していきました。
 とりあえず仕事をしないといけませんからね。
 そう思い直した僕は、意識をしっかりと切り替えていきまして、すでに集合していた皆と一緒にいつもの調理作業を開始していきました。

 そして夕方……

 コンビニおもてなしの営業と閉店作業を全て終わらせた僕が巨木の家に戻ると、
「パパぁ!」
 そう言いながら、ムツキ少女バージョンが再び僕に抱きついてきました。
 ショートヘアで、その端がくるんと巻いているムツキは僕に抱きついてゴロゴロ喉をならしています。
 すると、そんなムツキに対抗するようにリョータが僕に向かってトコトコ歩いてきます。
「ぱぁぱ、りょ~あも……」
 舌足らずな声でそう言っているリョータなんですが、その横を今度はアルトが飛行魔法で空を飛びながら追い越していきまして、
『お父様、アルトもお慕いしておりますわ』
 思念波でそう言いながら僕に抱きついて来ました。
 これで、パラナミオが学校から帰っていたらさらに抱きついて来たことでしょう。
 
 で、3人にひとしきり抱きつかれた後、僕は子供達と一緒にソファへと移動していきました。
 3人は僕の膝上を巡って小競り合いを繰り広げていきましたけど、ここは一番体の大きいムツキが勝利し、笑顔で僕の膝の上に座っています。
 で、リョータが僕の右、アルトが左に座って僕に抱きついています。
 その前にやってきたスアは、ムツキを見つめながら話を始めました。
「……あの、厄災魔獣の力をね、ムツキも持ってた、の」
「この姿になれるのが、その厄災魔獣の力ってこと?」
「……うん、そう」
 スアの説明によりますと、ムツキは成長魔法を使用することが出来るそうなんです。
 ただ、その魔法を使用出来るようになるためにはムツキの赤ちゃんボディがその魔力による巨大化に耐えることが出来ないといけなかったわけなんですけど、ムツキはその体を構築するために意図的に眠り続けて自分の体の成長を促進させていたんだそうです。
 ただ、魔法によってこの姿を維持しているため、寝てしまったり魔法の使用をやめれば元の赤ちゃんの姿に戻ってしまうそうなんですよ。
「……もっと大きくなれば、変化魔法も使用出来るようになる、はず」
 スアはそう言いながらムツキの頭を優しく撫でていました。
 ムツキは、そんなスアに向かって笑顔を浮かべながら気持ちよさそうに喉をならしていました。
 ムツキは、ひとしきりスアに頭を撫でられた後、僕の方へ顔を向けました。
「ムツキね、少しでも早くパパとお話したくて頑張ったの!」
 そう言ってニッコリ笑っています。
 ……なんといいますか……サラマンダーのパラナミオといい、思念波が使用出来るリョータといい、すでに魔法をいくつか使えるアルトといい、僕の子供達ってみんな規格外過ぎるよなぁ……そんなことを思っていた僕なんですけど、そんな僕の考えなどお構いなしな様子で笑っていたムツキは、僕の顔に両手を伸ばしてですね、僕の顔を押さえたかと思うと
「この大きさなら、パラナミオお姉ちゃんと同じ事が出来るしぃ」
 そう言いながら目を閉じて僕に向かってブチュっとキスを……しかけたところで、どうやら力尽きたらしくそのままパタンと倒れ込んで眠り始めてしまいました。
 同時に、その姿はみるみるうちに赤ちゃんのそれに戻っていきました。
 僕は、ぶかぶかの服の中で眠っているムツキを抱き上げると、優しく抱っこしていきました。
「僕に懐いてくれるのは嬉しいけど……なんつうか、おませさんだよなぁ」
 そう言って苦笑する僕の視線の先で、赤ちゃんの姿に戻ったムツキは気持ちよさそうに寝息をたて続けていました。

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