第2話 闇堕ちエンドより死にエンドのほうがマシですかっ?!
突然、一枚のスチル絵が、すっと脳裏に浮かび上がる。
悪役令嬢のローゼマリアが、獄卒兵と囚人たちにかわるがわる犯されるというおぞましいものだ。
脱走しないよう首枷をつけられ、一枚の布も与えられず。
ぽっこりとした腹のローゼマリアに、男たちが次々とのしかかってくる。
快楽しか考えられなくなったローゼマリアは、喜々としてそれを受け入れ――
男性向けエロゲー並みの設定を高クオリティのスチル絵で描かれ、トラウマになりそうだと乙女ゲー掲示板に書きこまれていた。
(あっ……あんな悲惨な結末を迎えるくらいならっ……!)
瞼をぎゅっと伏せ、貝殻のような白い歯を舌の上に立てる。
思い切り噛みしめようとした、その瞬間――
「おい。愚劣な野郎ども。その汚らしい手を彼女から離せ」
低く硬質的だが、耳障りのいい声が聞こえてきた。
見ると鉄格子の向こうに、背の高い男がひとり立っている。
男は、とても珍しい格好をしていた。
黒檀色のクーフィーヤを頭に巻き、精緻なアラビア風模様を織り込んだ、色とりどりの
クーフィーヤと同じ色の足首まであるカンドゥーラの上から、金糸を織り込んだ豪奢なカフタンガウンを羽織っていた。
腰には太めのレザーベルトを巻き、ホルダーには大剣を差している。
そのうえ、鋭いくちばしを持つ鷹を肩に乗せていた。
(だ、誰……? まるでシークみたいな恰好だわ……)
服装から異国のひとだとわかるが、なぜここにいるのかはわからなかった。
それに遠目からでも、彼の容貌が整っているのがわかる。
意思の強そうな目つき。高い鼻梁、形のいい唇。
太陽に灼けた褐色の肌は、チョコレートの混じったバタークリームのように滑らかだ。
野性的であり、蠱惑的でもあり。もう神の領域と称していいほどに魅力的である。
その男がカフタンガウンを腕で払いのけると、帯剣していた
「その女性は私のものだ。十年前から追っていたのでね」
冷酷なまでの物言いに、ローゼマリアの頭がクラクラしてしまう。
(……十年も、わたくしの命を狙っていたというの? 覚えはないけれど、さすが悪役令嬢……)
それでも凌辱腹ボテ闇堕ちエンドより、何倍もマシかもしれない。
(死にエンドもあったのね。隠しイベント……? ある意味貴重だわ……)
悪役令嬢として覚醒してから数時間しか経過していないが、ローゼマリアはすでに人生を諦めかけていた。
モブ獄卒兵や犯罪者に嬲られて生き恥を晒すより、見知らぬイケメンシークの剣によって一刀両断されたほうが、元乙女ゲーマーとして本望というものだ。
ただ、どうしてもわからないことがある。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
乙女ゲーム「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」に登場する、悪役令嬢ローゼマリアに転生するなんてことに――