6.隣に座ったイケオジが、超かっこいいんですけどっ!
鼻にかかった低い声は、腰が痺れるような甘さだ。
だけど、どこか憂いを含んだような独特の声質。
気になってそっと伺いみると、ひとめ見ただけでもおしゃれだとわかる四十歳くらいの男性が座っていた。
(すっごく、イケメンなおじさんだ……)
酔っ払った頭でも、その男性が格好いいとわかる。
男性は、ひと目見て高級だとわかる品のよいスーツを着用していた。
スーツの襟には青い宝石のついたラペルピン、袖口にはお揃いのカフスボタン。
ネクタイピンも青い石がはめ込まれており、とても洒落ている。
髪はオールバックで後ろに流しているが、襟足が少し長めで洗練さの中にワイルドさもあった。
そして極めつけ、胸のポケットには赤い薔薇が差し込まれている。
(イケメン過ぎる! イケメンのおじさまだから、イケオジだ! やっぱりホテルのバーには、こういうハイグレードなひとが似合うのね。映画の中から出てきたみたい……!)
彼の前に置かれた細くて長めのグラスには、ユラユラと淡い気泡が浮き上がっていた。
シェリートニックという名の酒を知らないちひろは、彼がどんな顔をしてそれを飲むのかとても気になった。
イケオジが大きな手でグラスを持つと、ゆっくりと口元へと運ぶ。
色気のある厚い唇がグラスのフチにつけられると、なぜかちひろの胸がドクンと高鳴った。
イケオジがそのまま顔を上向きにすると、ゴクリという音が鳴り、男らしい喉が隆起する。
彼がグラスをテーブルに戻したタイミングで、ちひろはつい問いかけてしまった。
「美味しいですか?」
イケオジが「え?」という表情で、ちひろに目線を向けてきた。
すぐに、見知らぬ男性に突然話しかける怪しい女になってしまったことに気づく。
「すみませんっ……あ、あの……急に話しかけてしまって……ヘ、ヘンですよね」
酔っ払ってつい大胆なことをしてしまったちひろに、イケオジはにっこりと笑った。
「いや? ヘンじゃないよ。こんなに可愛い女性と話ができて光栄だ」
垂れ気味の目の端にシワができて、なんとも渋い。
そして、笑うとなぜか可愛い感じもして、その表情のギャップにドキドキしてしまう。
ちひろは否定されなかったことに安堵し、胸の鼓動に気づかれまいと、ついつい訊かれていないのにペラペラと話し出す。
「私、こんなステキなバーでお酒を飲むのが初めてなんです。少し……ううん、すごく緊張していて、恥ずかしいけれど何を頼めばいいのかわからなかったくらいで……」
酔っているせいか、それとも素敵なおじさまを前にしているせいか、どんどん饒舌になってしまう。
だがイケオジは嫌な顔ひとつせず、ちひろの話に耳を傾けてくれた。