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「でも城藤の人間だって分かると何社も落ちて……やっと内定もらえた会社は実は親が裏で手を回した城藤の取引先の会社でした。落とされた会社のうちいくつかは親が俺を採用しないようにお願いしたそうです」

それは就職したとしても城藤の関係者は優遇されてしまうかもしれない。御曹司なら尚更だ。優磨くんの実力を正当に評価してもらえない可能性がある。

「逃げられないんです、城藤からは。俺は長男なんで。いずれは会社を継ぐことになるでしょうね……」

普通なら社長としての未来が待っていることに安堵するのかもしれない。でも優磨くんは違う。それは望んだ未来じゃない。

「もしかしたら俺が知らないだけで、もう結婚する相手も決められているかもしれません……」

「………」

その可能性は十分ある。美麗さんも大学在学中にお見合いの話が出て、卒業と同時に結婚させられるところだった。

「だから俺はいつか自分の意思を貫けるくらいの力を手に入れたいんです。結婚は自分の好きな人とできるくらいに。そのためなら社長になる勉強もします」

いつの間にかマンションの前に着いてしまって私は足を止めた。そして優磨くんも私の横で止まる。マンションの玄関ホールから漏れる明かりに照らされた優磨くんは初めて見る凛々しい顔になっていた。

「足立さん、俺と付き合ってください」

目を見開いた。彼の気持ちを知ってはいたけれど、こんなに早く伝えられるとは思っていなかった。

「足立さんを守れるくらいの男になりますから」

こんなにも真っ直ぐに、心を込めた告白をされたのは初めてだ。優磨くんの目は今にも泣きそうに赤い。私の返事を待って緊張しているときの顔だ。
もしも私に好きな人がいなかったら、こんな素敵な告白にOKしてしまったかもしれない。でも私は優磨くんの気持ちに応えることはできないし、応える資格もない。

「優磨くん……ごめんなさい……」

目が潤んできた。私の言葉を聞いてギュッと目を閉じた優磨くんが霞んで見え始めた。

「ごめんなさい……私は……」

「慶太さんが好きなんですよね」

驚いて瞬きすると涙が頬を伝った。

「気づいてましたよ。足立さんが慶太さんをどう思ってるのか。気づいてて、それでも俺の気持ちを伝えました」

「そう……なの?」

「慶太さんも分かりやすいですけど、足立さんも分かりやすいです。いっつも慶太さんのことを見てましたから」

それほどに私は浅野さんを意識して見ていたんだろうか。

「だから気持ちを伝えられれば満足です」

「ごめんなさい……」

「謝らないでください。フラれるって分かってたんですから。少しだけ悪足掻きしてみました」

申し訳なくて優磨くんの顔が見られない。

「嬉しいです。慶太さんを好きになってくれて」

「え?」

「姉と別れてからの慶太さんはボロボロでした。今は立ち直ったように見えても前とは違う。女性に対して特に冷たくなりました」

優磨くんも気づいていた。浅野さんの変化に。

「慶太さんは俺には言ってくれないけど、褒めらるようなことはしてないと思うんです。前に女の人と電話しているところを聞いちゃって……」

「うん……浅野さんのやってることは結構酷いかもね……」

「だからそんな状態の慶太さんを好きになってくれてありがとうございます」

今にも泣きそうに目の周りを赤くして私にお礼を言う。こんな素敵な男の子の気持ちに応えられないことが申し訳ない。

「慶太さんは手強いでしょうけど、俺応援します!」

最後は笑顔で私を励ましてくれる。優磨くんはいい男だ。

「あの、足立さんの下の名前って何ていうんですか?」

「美紗だよ」

言ってからしまったと口を手で軽く押さえた。美麗さんの結婚式に私がいたって知られないように、万が一を考えて細かい情報は教えない方がよかったかもしれないのに。

「美紗……か……」

優磨くんは少し考えてから「美紗さんって呼んでいいですか?」と言った。

「あ、うん……いいよ」

「ありがとうございます!」

私の名を知れたこと、それだけのことで嬉しそうに笑う。その笑顔に心が軽くなっていく気がする。優磨くんに私はどれほど救われたことか。

「美紗さん、映画は一緒に行きませんか?」

「映画?」

「あの恋愛映画は観たいんです。でも慶太さんはああいうの嫌いで一緒に行ってくれないんです。男友達と見に行く映画でもないし。それとも俺とはもう会ってくれません?」

一転して不安そうな顔になる優磨くんに今度は私が笑顔を見せた。

「もちろん、一緒に行こう」

そうしてまた私を安心させる顔をしてくれるのだ。

「送ってくれてありがとう」

「おやすみなさい」

優磨くんは私がマンションの中に入るまで手を振っていてくれた。私の心にほんの少しの罪悪感が残った。





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