開かずの扉
10分程かけて杉田さんと共に旦那さんが明日菜さんに転移してしまった話を二人にした。
半信半疑かもしれないけど、娘さんである美奈ちゃんが交流能力者という事でわかってもらえたかもしれない。
この霊能力は遺伝するかどうかまだわからないし未知の分野である事、会話が出来ない奥さんに愛があるとか無いとかそういう訳じゃなくて、旦那さんも昨晩スマホの待ち受け見て泣いていた事を伝えた。
まだしばらく関係者は来ないだろうから葬儀が始まるまで美奈ちゃんを霊媒に家族水入らずの時間を作ってあげようと二人部屋を出た。
☆
「ところで杉田さん、SDカードのプロテクト、まだ外れないんですか?」
「沢口君も頑張っているみたいだけど難しいみたいだね。誕生日、電話番号、娘の名前、車のナンバーとか関連性のあるものとか一通りやっているのと文字の組み合わせ乱数とかやっても駄目らしい。
「さらに一定の入力数間違えると時間が経たないと開かないみたいなんだ」
「もしよかったらその一家惨殺事件の事教えてくれませんか?何故警部補はあの山中に居たのか・・」
「良いとも、あのSDカードの存在も気付いてくれた君だからひょっとしたら何か閃いてくれるかもしれない。本来なら守秘義務が〜って言うんだろうけどワラにもすがりたいのが本音だよ。私や細川からも協力願うか迷ってたんだ」
杉田巡査部長は立ち上がると自販機にコインを入れ始めた。
「コーヒーでいいかい?」
私は頷いた。
☆
先週の金曜日の晩8時頃、横浜に住む会社員の林さん宅に強盗が押し入った。居間には複数滅多刺しにされた旦那の林 秀人、3歳になったばかりの娘の麗華、そして妻の彩乃が惨殺されていたらしい。
特に妻の彩乃は両手が縛られて両目をくり抜かれ、娘の麗華はみるも無残な姿に変わっていたとか。
室内は荒らされて引き出しから何から抜き出され、風呂場にはノートパソコンが沈められていたらしい。
物取りと怨恨で捜査をしているけど近所付き合いも悪くなく特に問題はありそうに思えない。
「旦那さんの仕事はどんな関係だったんですか?」
「食品や雑貨を扱う輸出入の仕事と聞いている。特にきな臭い商品は扱っていない会社だった」
「週末の夜の8時・・・そんな凄惨な殺人なら悲鳴とか聞こえてても良さそうなんだけどなぁ」
「旦那さんは滅多刺しなんですよね・・目的は旦那さんの殺害?」
「まあ、でも妻と子供も可哀想だったよ」
「犯人につながる指紋とか足跡とか出なかったんですか?」
「指紋は出なかったがゲソ痕は3つあったらしい。どれもディスカウントストアでよく売られているタイプのスニーカーだそうだ」
「犯人は3人、音も立てずに惨殺か・・・」
「徐が犯人だとしたら中国マフィアらしい凄惨な殺人と言えますね。何か恨みを買うような事した?誰が?・・・」
突然杉田の携帯が鳴った。
「はい杉田です。ああ、お疲れ様。4時くらいにはこっちにきておいてくれ、うん、頼むよ。・・・やはりまだ自供せずむっつりか・・・わかった、気をつけてな。」
「細川からだった。まだ自供してないらしい。細かい話はこっちに来るからその時に聞こう」
再度杉田の携帯が鳴った。
再び電話に出ると声のトーンが変わった。ボソボソと2、3言葉を発すると受話器を切った。
「高梨さん、そろそろ会場の方にいきましょう。吉澤さんの様子も心配だから」
そういうと2人休憩所を後にした。