賭けに出る
「だーかーら、そんなのタバコのオマケに付いてきた景品じゃねえか!銃刀法とか知らねーよ、没取でもなんでもいいから帰らせろよ!」
万世橋警察署に連れて来られたその男はヤマダと名乗った。
銃刀法では刃渡6cm以上のもの、折り畳みナイフに関しては8cm以上の長さを正当な理由無しに携帯していた場合違反となる。
ただしこれ以下の長さでも凶器になりえると判断されると軽犯罪法違反となるのだ。
取調室の隣室の控え室からマジックミラー越しに取り調べの様子を伺う高梨と吉澤、それに本庁から駆けつけた杉田がいた。
「高梨さん、今日2回襲ってきた相手、ヤツじゃありませんか?」
「そう言われても・・杉田さん、オレ、相手の顔見てないんですよ」
『俺を襲った奴だ!チキショウ!ふざけやがって!!』
ヤツが犯人と言い切れないオレに反して激昂する吉澤。いまにも取っ組み合いに出掛けて行きそうな勢いである。
吉澤が人間だったら・・
いや、生きていたのなら当事者である被害者の証言で逮捕できるんだろうに。
今ではただのプラスチックで出来た人形。いくら会話出来ると言ってもダメだよなぁ。
なるほど、今回みたいに人間で無い吉澤の話を汲み、そこから物証なり探し出すのが吉澤達0係の仕事なのか。
「今回の秋葉原の事件と最初の私達が襲われた事件、そしてこととなりの事件とヤツに関連しそうな物証は無いんですか?」
「残念ながら、まだ何も。」
「それに、今回ここまで引っ張ってきた案件も銃刀法ではなくて軽犯罪法違反ですから指紋の採取も拒まれちゃって・・・」
軽犯罪法違反の場合、刑罰が拘留か科料でしか無い。科料も最高1万円程度なので顔写真と指紋採取は原則拒否できると説明が続いた。
その時、高梨達の詰めている部屋の隣の取調室に1人の制服警官が入ってきて尋問中の刑事に耳打ちをした。
『何があった?』
尋問中の刑事が苦虫を潰した様な顔をして退出すると高梨達の部屋に入ってきた。
「ヤマダの弁護士が来たらしい。即刻身柄の引き渡しを要求している、どうする?」
「えらく手回しが速いな・・・」杉田は考え込んだ。
『折角尻尾捕まえかけたんだ、なんとしても絶対逃さないでくれよ!頼むよ!』
つぶらな可愛い眼で杉田の顔を見つめる明日菜。
不思議な事にこんな風景見ていると、小さな人形の女の子に懇願されているんじゃ無いかと錯覚を高梨は覚えた。
中身はオッサンなのに。
「どうしますか?連絡先押さえて解放しても構いませんか?接見要求もされていますが。」
「すみません、1つ、アイデアを思い付きました!」
突然素っ頓狂に叫んだ高梨にみんなの視線が集まる。
高梨が生み出したアイデア、それは・・・