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ラジヲ会館

秋葉原に着いた高梨の目に飛び込んで来たのは極彩色溢れるアニメや美少女ゲームの看板だった。

「なんか暫く来ないうちにずいぶんと、まあ・・・。」

そんな事思うと年寄りっぽいな、と苦笑する。

高梨が最後に秋葉原を訪れたのは仕事で使うノートパソコンを買いに来た時だった。確かにその時も電子部品の秋葉原から家電の秋葉原、それからオタクな街へと変化しつつある頃だったとは思ったけども・・・。

客引きのメイドカフェの店員達の間をすり抜けて新橋のホビーショップの店員に書いてもらった地図を片手にビルを探し出した。

ラジオ会館。その昔はその名の如くラジオ、無線機やそれらを自作するのに必要な部品を売っていた記憶がうっすらとあったはずなのだか、すっかり様相は変わってしまったようだ。

中央の幅の狭いエスカレーターまで吸い込まれるように人の流れに流されて階上を目指す。

「とりあえず8階かなぁ」

東急ハンズなど幾多も見るべきフロアが多いショップでは最上階までエレベーターで上がって一階づつ降りてくる方法は高梨の好み。

エスカレーターで登ったその先には これぞ人形売り場、という感じの風景が広がっていた。
それは先ほど新橋で見た「おもちゃ屋さんのお人形売り場」というものではなくいわゆるその道のプロ、というか専門的な世界。

勿論、完成された「一体」とカウント出来る人形も居るけど、ほとんどが「部品」として並べられている非日常的な風景なのだ。

頭、胴体、腕。
ウィッグ、眼球・・・。

「ちょっと、これは・・怖い、ね。」

高梨は初めてみる光景に好奇心と恐怖心の入り混じった感情を覚える。

『俺がこの人形じゃなくて良かったと思ったろう?』

「大丈夫、充分怖いから」

それに並んでいる人形の大きさがトートバッグに入った吉澤の倍近くある。ちょっとこのサイズだと持って歩くのも難儀しそうだ、と高梨は思った。

そんな高梨を見つめる無数のビー玉の様なグラスアイ。アニメのキャラクターみたいに描いた明日菜の瞳と違って、本物の眼の様なその人形の瞳は吸い込まれそうだと思う。

人形は魂や霊的なものを吸い寄せる。

昔の人はよく言ったものだ。いま、それがよくわかった気がしたが、ふと気が付いたら吸い込んでしまった人形そのものが自分の手中にあったのだ。

なんか此処には無さそうな気がしてきたが店員に聞いてみる。

やはり予想通りこのフロアには無くおそらく一つ下の階にある店で扱っているとのことだった。

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