桜田門
リアシートの真ん中に押し込まれた私は2車線の県道から幅広い3桁国道へと進路を向けた。
「おい、多摩署は方向が違うぞ?」
「良いんです、警視庁の管轄ですから」
「じゃあ俺、桜田門までいくの?」
「そうなりますね」
「じゃあなんでさっき多摩署って名乗ったんだ?」
「周りの目ですよ。所轄から来たと見えれば地域課の可能性もあるでしょう?」
セダンは多摩川の橋を渡った後、首都高に乗っかり都心を目指して進んでいく。
午前中は電車で、午後から車で都内か・・・
クルマの中でこの奇妙な警官達の話を聞く。この人形、もとい、吉澤からは大まかな話は聞いたがやはり信じがたい事だったからだ。
杉田達は警視庁捜査一課の刑事。捜査一課とは強行犯つまり殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火などの凶悪犯罪の捜査を扱う
部署らしい。いわゆる「刑事」が居るのが捜査一課。
その中でも35の係に割り振られて、杉田達のいるゼロ係とは1から4までの4つある未解決事件を扱う特命捜査係の中だけど正式には実在していない事になっている幽霊部署のナンバリング「0」係らしい。
テレビドラマに出てくる特命係が実在したのは驚きなんだけど、実在した部署の実在しない事になっている部署ってややこしい話だ。
杉田の話だと、現代科学では説明出来ない方法や現象から科学的に立証出来る証拠を集める部署らしい。
科学的に立証出来ないモノ、コトは現在法では犯罪を立件出来ない。例えば、ある殺人事件があり、その場には目撃者はいないけどノラ猫が一部始終見ていたとして、そのノラ猫を目撃者として証人になれるか、と言えばNOだ。
しかし、ノラ猫から話を聞く事が出来てその後の犯人の足取りや隠れ家、凶器の在り処を知る事が出来たとしたらどうだろう?
物証を見つけられれば、それを犯人と結びつけられれば証拠になるのだ。
ノラ猫とか地縛霊とか、こっくりさんとか「知り得ない証拠・証言」を集めるのが0係、通称「霊係」らしかった。
高梨達を乗せたセダンは霞が関のインターを降りてショートケーキの様な建物の地下駐車場に滑り込んで行った。
警察モノの舞台でお馴染みな警視庁だった。