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上書きされた記憶

もう何がなんだかわからない。

急かされるように俺は会社から持ち帰った資料の入った鞄にその男の所持品を詰め込んだ。

端から見たら俺がこの男を襲い、金品を奪ったように見えているのかもしれない。

ヤバインジャナイカ
マズインジャナイカ…
このまま警察に連絡した方がいいんじゃ無いか……

とりあえず、落ち着こう。
家に帰って落ち着こう。

汚れた上着をその鞄を抱えるように隠しながら自分の部屋に戻った。

鍵と普段閉めたことの無いドアチェーンまで掛けると汚れた服を洗濯機に放り込む。
手と顔を洗うと水道の冷たさで落ち着いてきた。


……目の前で1人、人が死んだ。
いや殺された。
俺も一緒に殺されていたかもしれない。

そうだ、あの人形・・・



あの男の所持品と一緒に鞄から人形が転がり出て来る。
そしてあの銃。

『やれやれ、やっと出してくれたか』

喋った!やっぱり喋った!

「ななななななんなんだ、なんなんだお前!」

『俺か?俺は・・・・

目の前の人形が話し出した。

イヤ、実際には話しているわけではなく私の心へ直接伝えているらしい。

そして先ほど目の前で死んだ本人がこの人形に乗り移っていると言う。

にわかに信じられない話だが目の前の人形が淡々と語り始めた。

彼の名前は吉澤吾郎。
警視庁捜査一課ゼロ係。
通称、霊(レイ)係の刑事。

迷宮入りとなりそうな案件を通常の捜査と違う捜査方法で探し出す部署の刑事だったらしい。

彼の話によると、殺人事件などの現場で殺された被害者の残留思念を汲み取り捜査の手掛かりとする。
その残留思念が残っていた物があの人形で、あの人形と共に捜査している最中犯人につながる人間に殺されたらしい。

残留思念を読み取れる能力が伝えるのは72時間だけ。

その捜査の最中、被害者の残留思念が残っていた人形を私がこの刑事の上に乗せてしまい、さらにこの刑事が死んでしまったため刑事の思念が上書きされてしまったらしい。

『そんな訳だから上書きしてしまったあんなにも責任があるから捜査に協力してほしい。いや協力する義務がある』

「協力ってなんだよ!訳わからない世界にヒトを巻き込まないで欲しいな」
「それに協力しなかったらどうなる?」

『別に構わないが、お前あの時俺の銃撃ったよな。捜査すれば硝煙反応もでる。銃刀法違反でまもなくここに応援にくる同僚に引っ張ってもらう事も出来るんだけど?お前が撃った後相手が居なくなったよな?弾が当たっていたら傷害罪、死んでれば殺人罪だがどうするかね?』

「汚ねえ!第一お前が撃てって言ったんだろう!」

『誰に言われたって?人形に言われて撃ちましたっていうの?オマエ、アタマおかしいんだろう?統合失調症じゃないか?って医療刑務所行きだなぁ〜しばらく出てこれないけど〜』

「汚ねぇ〜オマエすげぇ汚ねぇ・・・」

ハメられた。
日曜日早々に絶望が顔を覗かせる。

『そう悲観するなよ。元々の被害者の残留思念はもう時期消える。俺の残留思念がこの体で残っていられるのも70時間を切った。時間が来れば俺もあの世に旅立たなきゃいけないという事さ。それまでにホシを挙げらればよし、タイムオーバーならまた迷宮入りの事件が1つ増える。お前は元の生活に戻ってこの事件を忘れてしまえばいい。』

『・・・でもね。俺は両親の目の前で家族共々惨殺されたこの女の子の魂だけは救いたかったんだ。絶対にな。』

ピンポーン

玄関のインターホンのチャイムが鳴った。

モニターには背広を着た2人の男が居た。
『あれは同僚だ。どうするかはお前が決めろ』

どうする?俺。


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