昼下がり殺人事件
昔、遊園地だった跡地のキワに人知れない山道のような路地がある。
小学生の頃はよく連れて行ってもらったこの遊園地もいまはもう無い。
以前アトラクションだったコンクリートの廃墟に無数の枯れススキが長い時間をかけて自然に戻ろうとしているかのようだった。
高校に電車で通うようになってから見つけた抜け道。
抜け道と言ってもほとんど山道、もちろん地図にも載ってない。
だけどこの道を知っているのと知らないのでは家から駅までの時間が10分以上違うルートだった。
毎日駅までの通勤路にこの道を使っているけどすれ違う人はほとんど無い。暑い夏の日は木陰が涼しく、乾いた風が丘陵に向かって吹いて行く。
今日は日曜日。普段なら会社に行く時以外通る事が無い。
ただ忘れ物に気づき誰もいない会社に出社し、この昼下がりまた家に戻る帰り道。あと5分もすれば部屋に帰れる・・・はずだった。
坂道を登っていると普段見かけない小さな人影を見つけた。
30センチいかない位の人形。
リカちゃん人形かな?
ちょっと違うような気もするけどリカちゃん人形なんて小さい時に妹が持っていたのを見たことあるだけだからよくわからない。
ジェニーちゃんとか色々種類があると聞いていたし、そのリカちゃん自体も長い年月で変わってきていると前にバラエティー番組でやっていたのを知ってる。
子供がここを通って落としたのかもしれない。道端のフェンスにでも引っ掛けておけば持ち主が戻ってくるかもしれない。
人形を拾い、土で汚れた顔や髪の毛を拭っていると道から外れた林の中にこの人形と同じ様に倒れた人影を見つけた。
呻き声。
「大丈夫ですか?」
そう呼びかけ駆けつけると身体を起こしかけて気付いた。
おびただしい血糊がそこら中に散っている
そして右手には短銃身の回転式拳銃。
口からは血が溢れて呼吸をするたびに溢れ出てくる。
「バ!バカ・・」 そう言うとその男は息絶えた。
ドス黒い血が地面に広がっていく。
し、し、死んじゃった!
って っていうか 殺されてる!!
慌てて警察に電話しようと鞄から携帯を取り出した瞬間、小さな爆竹の様な乾いた音と同時にブンッと空気のうねりが伝わってきた。
『バカ、頭を下げろ!そして俺の銃を取れ!!』
「うわっ!」
目の前に倒れた男の掌から小さな回転式拳銃を取る。
手が男の血液で真っ赤に染まり、飛沫がワイシャツを染めた。
パン!パン!
また銃声と衝撃波が伝わり、目の前の葉が四散した。
「どうすれば!どうしたらいい!!」
『右側だ!右手の方に向けて撃て』
「どこに撃てばいいかわかんない!」
『どこでもいい、撃つんだ!!』
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
相手の音より遥かに大きな爆音が山道に轟いた。
俺は倒れている男の掌から拳銃を取り無我夢中で引き金を引いた。
どこを狙ったかわからない。
ただただ無我夢中で引き金を引いた。
やがて訪れた静寂。
遠くで小田急線の走る音がする。
「大丈夫ですか!」
俺は目の前にいる男に声をかけた。
しかし、すでにその男は息絶えていた。
『早くこの場から逃げろ・・・俺を連れてな。俺の上着のポケットに財布とか色々入ってるから忘れないでくれ』
誰!
『ここだよ』
その人形が俺を見つめていた。