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38話〜王子の側近とギルマス

 ここはティールの街の北門の外側。辺りはまだ薄暗く夜明けまでにはまだ時間があった。

 マリアンヌは外側の門に寄り掛かりながら座り、ガルドが戻って来るのを待っていた。

(ガルドは本当に戻って来れるのかしら?もし戻って来れなかったとしたら、ガルドに聞けないまま、何も分からなくなってしまう。あっ!そっか、その時はユリィナに聞けばいいのよね。ん〜だけど……多分、すんなり教えてくれないとは思うけど……」

 そう考えながらマリアンヌは、遥か先の方に視線を向けると、こっちに向かって来る人影をみつけ、

(こっちに向かって来るのって、もしかしてガルドなの?)

 そう思いマリアンヌは立ち上がり、こっちに向かって来る人影を見ていた。

 するとその人影が徐々に、誰だか分かるぐらいにティールの街の方に近付いてきた。

 マリアンヌはガルドがひたすら大虹色スミレを担ぎ街の方に向かって来ているのが見え、

(やはり、ガルドだけど。今、担いでいるアレって、あの大虹色スミレよね?まさか、アレを1人で倒したって言うの?)

 そう考えているとガルドは北門の前で立ち止まり、辺りを見渡すとマリアンヌをみつけ近付いていった。

 ガルドはマリアンヌの側に来ると、

「マリアンヌ。こんな所で何やってるんだ?それに、何であの洞窟にいた?……何が目的かは知らねぇが、女が1人あんな場所に入って来たらあぶねぇと思うんだがな」

「ガルド。助けてくれた事は感謝しています。だけど、その質問はそのまま返すわね。単刀直入に聞くけど、貴方は何者なの?それに、大虹色スミレを倒してしまうなんて、普通じゃあり得ない!もう一つ、まだ頭がズキズキしてるんだけど、何故私の額切れて血が出てるの?」

 ガルドはいっぺんに色々な事を言われ何から話していいか分からなくなった。

「……マリアンヌ、あのなぁ……」

「ん?どうしたのよ。そんなに言えない事なの?」

「言えない事もあるが、1つ言える事はある。いや、謝らなきゃな。マリアンヌ、その額の傷は……」

 そう言い掛けたその時。石塀の上からナイフが飛んで来て、ガルドは既にその気配に気付き、素早く剣を抜きナイフを払い除けた。

「誰だ!?」

 そう言うとガルドはナイフが飛んで来た方を見た。

「マリアンヌ、お手柄のようだな」

「まさか!何故、クロステル様がここに居られるのですか?」

 そう言うとクロステルは石塀から飛び降り、ガルドとマリアンヌの方に近付いて来た。

「マリアンヌ。これはどういう事なんだ?」

「ガルド。私にも、何がなんだか分からないのですが?クロステル様。お手柄とはどういう事なのですか?」

「マリアンヌ。なるほど、お前は何も知らず、そのガルドに近付いたというわけか。だが、お前がここで足止めをしてくれたおかげで、難なく城に迎え入れられそうだ」

「城?って事は……。お前は、シェイナルズ城の者なのか?」

「ああ、そうだが。本当は、別件であるお方を探していた。だがまさか、こんな所で会うことが出来るとはな」

「クロステル様。まさかガルドが、神と契約した者なのですか?」

「恐らくはな。まだ断言は出来ないが、本人がここにいる。ならばその事を、直接聞いた方が早いだろう」

「クッ、こりゃ不味い事になったな。どうしたらいい」

 そう考えていると、クロステルはガルドの目の前に来て大虹色スミレの死骸を見るなり、

「……なるほどな。聞くまでもなさそうだ。普通の人間ならば、この大虹色スミレを倒す事など不可能。さて、我が城に来て頂きたいのですが……ガルド様」

「待て!?俺は……」

 そう言い掛けたが、ガルドは何を言っていいか分からなくなり黙ってしまった。

 すると1人の男が門をくぐりガルド達の方に向かって来た。

 そしてその男……いや、ゴルギアスはガルド達の側まで来ると、

「これはこれは、クロステル様。珍しいですな、貴方がこんな所にお見えになっているとは」

「フッ、珍しいのはお前も同じなのではないのかゴルギアス。滅多にギルドを離れる事がないお前が……。ん?なるほど、そういう事か。ガルド様が本物かどうかを試したという訳か。だが、何の為かは知らないが、ガルド様にはシェイナルズ城に来て頂くつもりだ!」

「クロステル様、それは構わないが。ただ、まだガルドには、やってもらわなければならない事があるんだが」

「なるほど。だが、ゴルギアス。それは後でも構わないのではないのか?」

「何を焦って居られるのですか?クロステル様。もしや、他の者に手柄を取られたくないとお考えなのでしょうか?」

「グッ!ゴルギアス!?お前、何を言っているのか分かっているのか?」

 そう言うとクロステルはゴルギアスを睨み付けた。

「フッ、クロステル様、図星のようですな。あっ、そうだった。そういえば、ガルド以外に探し人がいたのでは?」

「ああ、確かにそうだが?まさかゴルギアス、あのお方の居場所を知っているのか?」

「知っているとしたら、どうなされるおつもりなのですか?まあ、居場所をお伝えしても良いのですが……。では、ガルドと引き換えというのはどうでしょう?」

「ゴルギアス!クッ、分かった……それであの方は何処に居られるのだ?」

「クロステル様、そう慌てなくても直ぐに会えます。ルポアール亭にガルドの仲間と一緒に居られる」

「それはどういう事なんだ?俺の仲間の中にいるって……。城の連中が探してたのは、確かアイツだが。でも、何の為にアイツを捕まえようとしてるんだ?」

「なるほど、何も知らずに一緒にいたという事か。ガルド様は、かなりお人好しのようだ。何処の者とも知らない者の言う事を簡単に聞いてしまうとはな。だが、貴方様のお陰でみつける事が出来た。ゴルギアス、今からルポアール亭に向かうのだろう?」

「ああ、そうだが……」

「では、私も行くとしよう。お迎えに上がらなければな」

 そう言うとクロステルはティールの街の中に入りルポアール亭に向かった。

「どうなってんだ?アイツは、いったい何者なんだ?」

「ガルド。ルポアール亭に行けば、その事について自ずと分かると思うが。それよりも、まさか大虹色スミレの方を倒し持って来るとは」

「ああ、コイツ以外は何だか知らねぇが、皆逃げちまって捕まらなかった」

「なるほど、ガルドの事をあの虹色スミレが恐れたと……。ならばアレを渡しても問題無いという事になるな。では、我々もルポアール亭に向かいましょう」

「あの〜、私も着いて行ってもいいでしょうか?」

「ん?ガルド。お前の知り合いか?」

「知り合いかと聞かれれば違うしな。どちらかといえば、俺じゃなくユリィナの友人だ」

「クロステル様とも何か接点があるらしいが……。まぁ、さほど問題ないだろう」

 そう言うとゴルギアスは門をくぐり、ルポアール亭に向かった。

 ガルドは大虹色スミレを担ぎ後を追い、マリアンヌはそれを見てその後を追った。

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